ヒトES/iPS細胞から心筋細胞を分化誘導してシート状に播いて培養した。光学的マッピングを用いて興奮が伝播する様子を観察し、不整脈の病態モデルの作製し、種々の抗不整脈薬等による薬物応答を検討した。分化誘導した心筋細胞の遺伝子発現パターンは胎児型よりは成人型に近付いている傾向はあったが、完全に成熟したものではなかった。心筋細胞の播種密度を調整することにより、播種密度が高い時(2.6x10^3細胞/mm^2)よりも低い時(1.3x10^3細胞/mm^2)に有意に旋回波(Spiral wave)が誘発されることを示した。さらに、リエントリー性不整脈が起こっている心筋細胞シートに抗不整脈薬を投与することにより旋回波を止めることができることを示し、病状の再現に加え臨床で使用されている薬剤の治療効果の再現にも成功した。従来頻用されている新生仔ラット由来心筋細胞ではこれらの反応は確認されなかった。誘導・使用された心筋細胞の成体心筋としての成熟度がまだ不十分であること、旋回波の伝播速度が成体心臓で観察されるものより遅いことなど改善点は認められるが、本研究の成果によって、これまで限られていたヒト心臓における細胞モデル構築とヒトの不整脈における病態解明に新しい可能性をもたらしうると考えられた。これらの成果を10th Annual meeting of the International Society for Stem Cell Research (ISSCR)でポスター発表し、European Heart Journal誌に筆頭著者として論文発表した。
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