研究概要 |
本研究では、次世代の10nm以下の微細加工技術開発の一環として、かご形シルセスキオキサン(POSS)に長鎖アルキルが結合した自己組織化分子の合成を行い、得られた分子の熱的性質及びナノ構造について明らかにした。得られた化合物の構造解析は核磁気共鳴(NMR)、赤外吸収(IR)スペクトルにより行った。化合物の熱的性質を明らかにするために、示差走査熱量計(DSC)測定を行ったところ、昇温過程において107℃に融点を示す一方で、降温過程においては73℃に結晶化に基づく明確な発熱ピークを示すことが分かった。次に得られた化合物のバルクサンプル内部に形成される自己組織化構造について明らかにするために、化合物の熱処理(180℃,20h→100℃,20h)を行い、得られたサンプルの広角(WAXS)および小角X線散乱(SAXS)測定を行った。その結果、WAXS散乱曲線からは明確なPOSSの結晶構造に由来するピークが見られたのに対し、その小角領域(1.79,3.54°)においてはPOSS結晶とは異なる4.93nmの周期構造に基づくピークが見られた。更に詳細な構造解析を透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて行ったところ、周期約5nmからなる明確な層状構造の形成が見られた。これらの結果から、得られた化合物の自己組織化構造はバルクにおいてPOSS結晶ドメインとアルキル鎖の結晶ドメインが層状に重なった秩序構造から形成されていることが明らかとなった。 以上のように、本研究では当初の目的通りに、POSSを基盤材料とした10nm以下の周期構造を形成する新規自己組織化材料の作製に成功した。今後、薄膜内部における自己組織化構造の配向制御およびドライエッチング処理を行うことでナノ構造の基板への転写が可能になると考えられ、解像度の問題が顕在化しているフォトリソグラフィー法に代わる新規微細加工技術の開発を促進させることができると思われる。
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