研究概要 |
トラフグを代表とするフグ科魚類は,フグ毒テトロドトキシン(TTX)を肝臓や卵巣などの特定の組織に高濃度に蓄積するが,TTXの取り込みメカニズムは明らかでない。前年度,研究代表者らは,TTXを筋肉内投与した養殖トラフグの肝臓を対象にDNAマイクロアレイ解析を行い,緩衝液を投与した養殖トラフグを対照区として,TTX投与区の肝臓で発現レベルが増大する63遺伝子を報告した。本年度は,発現レベルが増大した遺伝子の中でコリントランスポーターをコードするslc44a1遺伝子の全長cDNAを決定し,本遺伝子のcDNAを組み込んだ発現ベクターをヒト腎由来HEK293細胞に導入してTTX輸送活性を調べた。しかしながら,発現ベクターを導入したHEK293細胞では,コントロール細胞に比べて有意なTTXの取り込みが認められず,トラフグ肝臓コリントランスポーターslc44a1は,TTXの輸送に関与していないことが示唆された。 そこで,養殖トラフグの肝臓および筋肉から作製したESTデータに対して,フグゲノムデータベースから抽出したトランスポーターをコードする推定cDNA配列を問い合わせ配列としてLocalBLAST検索を行い,筋肉のESTデータの検索結果と比較して,肝臓において発現が予測されるトランスポーターをコードする15遺伝子を選抜した。これら15遺伝子のESTデータの塩基配列上にプライマーを設計し,RT-PCRで遺伝子の組織発現分布を調べたところ,肝臓に強く発現する2遺伝子,卵巣に強く発現する1遺伝子,肝臓と卵巣に発現する1遺伝子,肝臓と消化管に発現する2遺伝子,肝臓,卵巣および消化管に発現する1遺伝子などが認められた。現在,これらのトランスポーター遺伝子のcDNAクローニングを行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度まで実施してきたトラフグ肝臓遺伝子の網羅的解析により,トラフグ肝臓から数種類のトランスポーター候補遺伝子を選抜し,現在,これらの全長cDNAをクローニングしている。次年度は,動物細胞発現系によるトランスポーター遺伝子の発現機能解析を実施予定である。
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今後の研究の推進方策 |
トラフグの肝臓からクローニングしたトランスポーター遺伝子を動物細胞発現用ベクターに組み込み,この発現ベクターをヒト腎由来HEK293細胞またはチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞にトランスフェクションする。トラフグ肝臓トランスポーター遺伝子を効率よく発現する細胞をスクリーニングし,トランスポーター遺伝子発現系を構築する。作製したトラフグ肝臓トランスポーター動物細胞発現系を用いて,テトロドトキシン(TTX)の取り込み試験を行い,TTX輸送活性を示すトラフグ肝臓トランスポーターを特定する。
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