細胞の遊走は、発生過程や生体の維持にとって極めて重要な現象である。遊走細胞は進行方向に対して前後軸を決定し、それに沿って細胞骨格や形態をダイナミックに変化させることで方向性を持って運動する。細胞骨格の一つである微小管は、特定の細胞表層で捕捉されることによって非対称に配向し、前後軸の決定及び維持に必須の役割を果たしている。しかしながら、細胞膜近傍で微小管がどのように捕捉されるのかは未だ判然としていない。微小管の伸長端に特異的に濃縮するPlus-end tracking proteins (+TIPs)は、微小管のダイナミクスや配向決定に関与すると考えられているが、その分子機構は明らかになっていない。本年度は、1)細胞膜近傍での微小管の捕捉機構を評価するcell-free実験系の確立、2)+TIPsの一つであるCHP-170のリン酸化による制御機構の解明を目的とした。1)の実験系の立ち上げに当たり、+TIPsとしてCLIP-170を、cortical factorとしてIQGAP1を用いた。微小チャンバーの側壁にビオチン化したIQGAP1を固相化することで細胞表層を模し、さらにチャンバー内で+TIPsとtubulinを加えて微小管を重合させ、側壁に衝突した際の微小管及び+TIPsの挙動を観察する事に成功した。今後詳細な解析を進め、CLIP-170とIQGAP1が微小管の捕捉にどのようにして寄与しているのか検証するとともに、その他の+TIPsとcortical factorの相互作用についても、この実験系を用いて評価する。2)については、AMPKによるCLIP-170のリン酸化の意義をin vitroでの再構成実験系を用いて検討した。その結果、in vitroでリン酸化型CLIP-170は微小管の伸長端への濃縮が減少することが分かった。CLIP-170の微小管末端への濃縮にはEB1が必要である事が知られているが、tubulin、EB1、CLIP170の三者のみの存在下では、CLIP-170のリン酸化による微小管ダイナミクスの変化は見られなかった。しかし、EB1、CLIP-170両方の結合タンパク質であり、+TIPsの一つであるCLASP2を加えた条件下においては、CLIP-170のリン酸化によって微小管の伸長速度が上昇することを見出した。今後、in vitroでの結果をふまえて、細胞内でのCHP-170リン酸化の意義について検討する。
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