本課題は、民族問題をめぐる政治的対立とその背後に存在する各国の政党システムの影響を分析するにあたり、特にバルト諸国を中心とした中東欧諸国の新興民主主義諸国をその分析の対象とするものである。本課題は事実上、科学研究費補助金事業課題番号21830123の後継としての側面を持ち、平成22年度はその初年度に当たる。この期間においては主に(1)バルト諸国の政党システムの妥当な把握、(2)政権政党による少数民族票取り込みの理論的基礎付け、の研究を遂行した。(1)について、バルト諸国の政党システム研究は、他の中東欧諸国のそれに比して国際的にも蓄積が少なく、特に2000年代以降のものが皆無であったが、本課題上その知見が不可欠であったため筆者自ら遂行したものである。分析の実施には、有権者の社会属性や政策態度および政党支持にまつわる世論調査データで、かつ中東欧諸国共通の枠組みでなされている物が必要であったため、本要件に唯一該当する英国アバディーン大学公共政策研究センター保有のNew Baltic Barometer(および他の中東欧諸国の物としてNew Europe Barometer)個票データを購入の上、計量的分析を行うことで3ヶ国の政党システムについて論考をまとめた。(2)については、いくつかの先行研究を踏まえたフォーマルモデルを用いた演繹的分析により、ある政党の得票率が既存の制度下で大きく減ずると(あるいは大きく減ずる見込みがあると)、かれらが制度そのものを変更することで新たな票田を得ようとするため、それまで有権者ではなかった少数民族集団を有権者に加えるような制度変更が発生するメカニズムを解明し、またそれがエストニアとラトヴィアの事例研究からも裏付けられることを明らかにした。本成果は国際シンポジウムで報告済だが、論文としての発表は来年度以降の予定である。
|