研究課題/領域番号 |
10J07206
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小林 正起 東京大学, 大学院・工学系研究科, 特別研究員(PD)
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キーワード | 共鳴非弾性X線散乱 / 希薄磁性半導体 / 電子状態 / 軟X線角度分解光電子 |
研究概要 |
金属タンパク質における物性を理解するには、開殻構造をもつ遷移金属の3d電子軌道とそれを取り囲む配位子の分子軌道との混成を知ることが重要であると考えられる。固体では金属タンパク質に近い状況は希薄磁性半導体(DMS)において実現している。そこで本年度は金属タンパク質の関連物質として考えられるDMSにおいて、SPring-8 BLO7LSUで立ち上げを行った超高分解能発光分光を用いた共鳴非弾性X線散乱(RIXS)実験を行った。 DMSは、母体半導体に数%の遷移金属イオンを添加した物質であり、中には強磁性を示すものが存在する。その電子構造はクラスターモデルを用いた計算によって良く理解されることがこれまでに報告されている。試料は、強磁性を示す典型的なDMSである(Ga,Mn)Asを用い、Mnの電子構造に関する知見を得るために、Mn L3吸収端におけるRIXSを測定した。超高分解能の測定にもかかわらず、Mn L3 RIXSスペクトルは非常に広がった構造を示した。クラスターモデルを用いた計算との比較から、配位子から正孔が移動した電荷移動状態が支配的であることが明らかとなった。 更に(Ga,Mn)Asの電子構造の詳細を知るために、Swiss Light SourceのADRESSビームラインにおいて軟X線角度分解光電子分光(SX-ARPES)測定を行った。最も興味あるMn 3dバンドを調べるには、共鳴増大により価電子帯の特定のバンドを強調して見られる共鳴ARPESが有効である。強磁性Mn成分の共鳴エネルギーに対応するにおいて価電子帯頂上近傍に不純物バンドの存在が明瞭に示された。この結果は、(Ga,Mn)Asの強磁性が観測されたMn 3d不純物バンドと関連していることを示す。RIXSで見られた幅の広がりはこの不純物バンドの幅を反映したものと推測される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
金属タンパク質の関連物質であるDMSにおいて、これまでに明らかではなかった不純物の電子状態を観測することに成功した。さらにその実験までの過程において、表面の酸化を防ぐために施した非晶質As層を持つ(Ga,Mn)Asを用いることで、表面処理をすることなく非晶質As層を通して明確なSX-ARPES測定が行えることを発見した。この結果は、(Ga,Mn)Asに限らず、薄膜試料において表面処理なしに測定が行えることを示す一つの例であり、この方法は後の薄膜試料の電子構造研究において非常に有効な実験方法となりえる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、タンパク質の発光分光測定に必要な準備を進めた。特に試料準備に必要な物品を揃えた。金属タンパク質の測定においては、真空と大気を隔てる窓材を用いて測定を行うが、窓が破れてしまうと真空チェンバー内に試料が飛散してしまうという問題がある。飛散を最小限に防ぐためには、窓材が破れた際・に真空と大気の間を仕切るシャッターが働き、試料を即座に別のルートで引くことが必要となる。来年度は、真空チェンバー内に飛散することを防ぐための装置整備を行い、SPring-8 BLO7LSUの超高分解能発光分光でのビームタイムを獲得して実験を行う予定である。
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