研究概要 |
土器の原材料である粘土には様々な鉱物が含まれている。これらの鉱物は粘土の産地に関する情報を含んでいるため、鉱物種、特に地球化学的挙動が特徴的な重元素を多く含む重鉱物を同定することによって、土器の産地推定の手がかりが得られる。これまで河砂、粘土などの堆積物中の重鉱物組成は偏光顕微鏡やSEM-EDSによるポイントカウント法が主流であったが、定量には高度の熟練した技術と経験を要し、汎用性の面では難しい点がある。そうした熟練した技術を必要とせずに結晶相の組成比を求める分析法として、粉末X線回折法がある。特に回折データのリートベルト解析により、結晶相の定量が可能となる。しかしながら、土器試料のような多成分の重鉱物の混合系では、回折線が重って複雑なパターンを示す。そのため実験室系装置の回折データでは分解能が低く、結晶相の定量化が技術的に困難であった。このように、精度よく鉱物組成を評価する手法が求められているが、我々は放射光粉末X線回折データを用いたリートベルト多相解析の分析技術をトルコの中央に位置するカマン・カレポユック遺跡から出土した青銅期時代の土器の分析へと応用し、産地推定を試みた。 参照試料として用意した構造既知の7種類の鉱物試料について、単一相と2~4相の混合物をめのう乳鉢で粉砕した後、ガラスキャピラリ(0.3mm径)に封入し、SPring-8のBL19B2にて測定した。 SPring-8の高輝度、高指向性のX線を用いることにより、回折ピークの半値幅が狭い高分解能の回折データが得られ、単一相のリートベルト解析における信頼度因子Rwp(%)の値は10%以下であった。定量分析に関しては、ルチルとアナターゼの2相混和物では精度の高い結果が得られ、4相までの混合系で解析に成功した。このように,放射光粉末X線リートベルト解析による重鉱物の相分析と古代土器の産地推定への応用は実際に可能であり、今後のさらなる研究が期待される。
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