申請者はこれまで、機械的刺激などの外部刺激により発光色が変化する刺激応答性発光材料の開発を行ってきた。発光色の変化は発光部位の集積構造の変化に基づいている。二種類以上の発光部位の集積構造を作り出すため、準安定相を誘起することが重要である。本申請研究では、これまでに申請者が得てきた知見を元に、準安定な集合状態を利用した蛍光プローブの開発を行っている。 本年度は水に溶解し、かつ外部刺激に応答して発光特性が変化する分子集合体のプロトタイプの作製を目指した。具体的には発光部位としてピレンを選択し、水溶性のデンドロン骨格をアミド基を介して導入した。この新規に合成した化合物はメタノールに溶解し、紫外光(365nm)を照射すると、水色の発光を示す。一方で、このピレン誘導体は水にも溶解し、エキシマー由来の黄色の発光色を示す。水中ではこの化合物は分子集合体を形成していると考えられる。また、この化合物は、バルク状態で紫外光を照射すると、ピレン部位のエキシマー形成に起因する黄色の発光を示すが、室温でせん断を印加すると、発光色が黄色から緑に変化する。機械的刺激により発光色が変化したので、この化合物はメカノクロミックルミネッセンスを示したといえる。さらに、興味深いことに、この化合物は機械的刺激を印加したのちに、湿気の高い環境(例えば相対湿度95%)におくと、元の発光色が回復することがわかった。これまでに、メカノクロミックルミネッセンスを示し、かつ、湿度にも応答する刺激応答性発光材料は報告されていない。
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