研究概要 |
酸化亜鉛(ZnO)は医療用軟膏や白色顔料、バリスタ(可変抵抗素子)、ゴム製造における加硫促進剤等の様々な用途に使われており、近年ではその薄膜化による応用研究が精力的に行われている。特に、資源的な問題が顕在化しているITO(スズドープ酸化インジウム)の代替材料としての透明導電膜への応用が期待されている。これらのZnO膜は通常、高熱や高真空を利用した高エネルギープロセスで作製されているが、近年これに代わる方法として、低コスト・低環境負荷の水溶液プロセスが研究されている。したがって本研究では(1)水溶液プロセスによるZnO膜・パターン作製、(2)透明酸化物導電材料としての応用を目的とした。 昨年度はスピンスプレー法と成膜後の紫外光処理により100℃以下の低温プロセスにもかかわらず1.5×10^<-2>Ω・cmという低い抵抗値を持つZnO膜を作製することに成功した。今年度はさらなる特性の向上を目指し、紫外光処理の最適化を行った。さらに、膜構造の改善を図るため、Helmut Colfen教授(Konstanz University, Germany)のもとでZnOメソクリスタルの作製を行った。 紫外光照射処理の最適化を検討したところ、約1日の紫外光照射により5×10^<-3>Ω・cmまで比抵抗が低下することが分かった。我々の知る限り、熱処理を経ない水溶液プロセスにより10^<-3>Ω・cmオーダーの低抵抗を実現したのは世界初の例と言える。ホール測定によって抵抗値の減少とともにキャリア濃度の増大と膜内有機物の分解が確認されていることから、この現象はZnOの光触媒作用により起因すると考えられる。有機物の分解によりZnO格子中へ欠陥、炭素原子、水素原子などが導入されていると推測される。透明導電膜としては上記の性能では不十分であることから、膜構造の改善による特性向上を目指し新規有機添加剤の使用とそれによるZnOメソクリスタル膜の作製を試みた。今年度ではメソクリスタル膜は得ることができなかったが、有機添加材によるZnO形状制御については新しい知見が得られたため、今後の研究の発展に期待ができる。
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