報告者は、戦後日本の警察と秩序維持をめぐる政治過程を再検討して、敗戦、占領、独立の激動の時代に警察がいかなる変化を遂げ、政治がいかなる秩序維持を模索したかを明らかにしようとした。 平成22年度は、国内の史料調査を網羅的に行う研究計画にもとづいて、(1)国の公文書、(2)自治体の公文書、(3)政治家・官僚の私文書、(4)刊行物に関して、それぞれ調査を行った。特に、自治体の文書館で史料調査を行い、地方警察の実態と課題を考察することができた。 第一に、戦時期から戦後初期にかけての地域の秩序維持について、連続性と転換の両面を見出すことができた。例として、戦時期の防空・防火活動に従事した警防団は、戦後の民主化によって活動や組織の変化を遂げつつ、地域の防犯組織として継続した。 第二に、地域の課題に対する警察の対応について、詳細な分析が可能となった。 第三に、国家的な課題や、全国に共通した課題に対して、各地域の警察の対応を比較することができた。例として、商品の価格統制や闇市の取締を行う経済警察や、占領軍との折衝が挙げられる。 第四に、戦後の自治体警察について、自治体の規模、経済力、民間の協力度、政治状況を考慮して検討を行った。例えば、小規模の自治体が自主的に自治体警察を廃止する一方、大都市は自治体警察の廃止に反対し、中央政界にも積極的な働きかけを行った。 以上のように、地方の公文書を比較することで、地域の枠を超えた立体的な考察が可能となる。 今後は、政治結社対策、社会運動対策、自治体警察の導入などの占領期の秩序維持政策について、諸外国との比較を行いながら、より研究を深めていく予定である。
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