研究課題/領域番号 |
10J07500
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中村 貴志 東京大学, 大学院・理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 両親媒性分子 / 歯車状分子 / ホスト・ゲスト化学 / 疎水効果 / 自己集合 / 超分子金属錯体 / ポルフィリン / 2,2'-ビピリジル |
研究概要 |
本年度の研究で、歯車状両親媒性分子から構築される水溶性カプセルの機能探求を目的に「水溶性カプセルの内部空間を利用した特異的化学反応の探索」を行った。その過程において、歯車状分子により水媒体から隔離された水溶性カプセルの疎水性内部空間に、様々なアニオン種が水溶液中で包接されていることを見出した。水溶液中において水和されて安定化されているアニオンが、疎水性の内部空間を有するホスト分子により認識・包接される本現象は極めて興味深い。疎水空間内に包接されるアニオン種は、溶液中と異なる特異的な反応性を有していると考えられ、種々の化学反応に対する利用が期待される。 さらに、歯車という形状特性が作り出す分子集合体の性質・機能に関する知見を発展・一般化させることを目的に、新規な歯車状分子ビルディングブロックのデザインを行った。特に、金属イオンの触媒活性・光応答性と、粛車状分子骨格自体の持つ特性とを融合し、協同的な機能発現をする超分子金属錯体ホスト分子の創成を指向し、それを達成した。具体的には、C4対称性を有するポルフィリン環に金属配位部位として2,2'-ビピリジル基を亜鉛ポルフィリン環のメソ位に直接結合した歯車状配位子をデザィシ・合成した。この配位子とトリフルオロメタンスルホン酸亜鉛(II)を、クロロホルム/メタノール/水=10:10:1の混合溶媒中で配位結合を駆動力として自己集合させることで、ディスクリートな亜鉛17核超分子金属錯体カプセルを構築することに成功した。この結果は、単純な構成要素からディスクリートかつ複雑な分子集合体を構築したという点で非常に意義深い。亜鉛17核超分子カプセルは、6枚の亜鉛ポルフィリン環に囲まれたラグビーボール状のキラルな内部空間を有しており、今後、この特異的な空間を生かしたカプセルの機能創成を目指して研究を進めていく方針である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
歯車状分子から構築される超分子カプセルの機能探索が本研究の目的である。本年度、水溶液中においてカプセルの疎水性内部空間にアニオン種が包接されるという、新規な現象を発見することができた。これは超分子カプセルの応用可能性を当初の想定よりも大きく拡張する結果である。また、歯車状分子と金属イオンからなる新規な超分子金属錯体カプセルのデザイン・構築に成功した。これにより、歯車という分子形状は、ディスクリートで複雑な自己集合構造を実現し、それに基づく精密な機能の発現に繋がるという重要な概念をもたらした。
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今後の研究の推進方策 |
本年度に発見した疎水性内部空間へのアニオン種の包接現象をさらなる機能へと結びつけるため、包接アニオン種の基質に対する反応性について検討する。加えて、外部環境応答性のカプセル構築を目的とし、機能性部位を導入した歯車状分子ビルディングブロックによる水溶性超分子カプセルの構築を目指す。また、本年度に構築を達成した亜鉛17核超分子カプセルについて、金属錯体ユニットに囲まれた特異な内部空間の性質および包接ゲスト分子に対する効果を調べる。さらに、歯車状配位子と金属イオンの自己集合という手法に基づく、新規な構造の超分子金属錯体の構築研究およびその機能探索研究を継続し、歯車状分子の自己集合による機能性分子システム構築の方法論の確立を目指す。
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