研究課題
本年度は、ゼーマン効果を用いたポジトロニウム超微細構造の精密測定を行った。0(ppm)の精密測定を実現するのに不可欠な、ガスの系統誤差の研究を中心に行った。(1)地震の影響を調査した。実験装置に重大な影響はなく、すぐにでも測定を再開できる状況だったが、電力不足で、6月まで測定を中止せざるを得なかった。(2)ガスによる系統誤差対策の1つ目として、残留ガス・放出ガスを抑えるための対策を行った。0(ppm)の精密測定には、ポジトロニウム超微細構造に対する物質の効果を正しく見積もることが必要不可欠である。そこで問題なのは、キャビティーにおける、残留ガス・放出ガスである。溶融石英の使用・ターボ分子ポンプの導入などの対策を行い、真空度を4桁以上改善するという、極めて大きな進展をした。これにより、影響を無視できるレベルまで抑えることができた。(3)ガスによる系統誤差対策の2つ目として、様々なガス圧での測定を行った。イソブタンでの測定は世界初であるため、ガス圧依存性の精密測定が重要である。このため、統計にはあまり重要でないデータも多くとり、系統誤差を抑えた。(4)ポジトロニウム熱化関数の精密測定を行った。これも、本実験と同様の、ガスシステムを構築し、より系統誤差を抑えた測定を可能にした。ほぼ測定を終了し、最終の解析段階まで進めた。この結果を、0(ppm)での最終結果に用いるため、この測定は重要である。(5)モンテカルロ・シミュレーションによる系統誤差について、現在の設計で1ppm程度に抑えられることを確認した。(6)統計精度向上のため、低圧での測定を重点的に行っている。理論と実験の差について言及し、真空の構造の解明につながりうる精度に達し始めた。より慎重に物質の効果を見積もり、1年以内に0(ppm)で真空中での超微細構造を求められる公算が大きい。
1: 当初の計画以上に進展している
ガスによる系統誤差の影響が、極めて低く抑えられ、系統誤差を十分小さくした測定が可能になったため。電力不足の影響は、当初見込みより厳しかったが、ガスによる系統誤差の研究が比較的早く終わったため、計画の遅れを取り戻した。ガスの系統誤差をより慎重に見極めるため、当初予定よりも多くのガス圧での測定を行った。統計精度については、当初計画通り達成している。
今後は、何よりもまず、低圧での測定をとにかく続け、真空への外挿による不定性を減らすとともに、統計誤差を小さくする。研究を遂行する上で、電力不足による温度管理能力の低下が、問題点として考えられる。温度の変化は、マイクロ波系の不安定さを引き起こし、系統誤差になってしまう。対応策として、マイクロ波のパワーを落とした測定を行うことで、温度管理に必要な電力を軽減する。統計に与える影響が最小限になるよう、そのパワーで最適化した、当初計画より低いガス圧での測定を行う。
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Hyperfine Interactions
巻: (Online First)
10.1007/s10751-011-0455-9
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