本年度は、ゼーマン効果を用いたポジトロニウム超微細構造の精密測定を行った。まだ暫定的ではあるが、6.6ppmの精度で超微細構造の値が得られた。熱化の効果を入れた暫定結果は、203.3910±0.0009(統計、4.7ppm)±0.0009(系統、4.6ppm)GHzであり、過去の実験値、束縛系量子電磁力学による計算値のいずれとも無矛盾ではあるが、理論値をより支持するものであった。この成果の意義は、超微細構造のずれに関して、熱化が大きな系統誤差となり得ることを示したことである。本成果は、真空の構造を解明する上で、より熱化の影響を受けない測定が必要であることを示した点で、極めて重要である。本年度、具体的に行った研究は、以下の通りである。 (1)低ガス密度における測定を長期間行った。これによって、統計誤差を小さくし、真空への外挿の不定性をより小さくした。統計誤差を小さくするには、できるだけ小さいガス密度での測定が必要不可欠である。低ガス密度では、単位時間に得られるポジトロニウムのイベント数が少なくなるため、より長期間測定する必要がある。これに本年度の大半を費やした。 (2)磁場分布の再測定を行った。最終的に残る最も大きな系統誤差は、磁場の非一様性である。磁場分布測定の精度が、そのまま最終結果の精度に結びつくため、磁場分布を精密に測定することが肝要である。2年前にも測定したが、その後セットアップを一部変更したため、再測定を行った。その結果、磁場の中心値が変化していないことを確認できた。また、新しく得られた分布に合わせて補償コイルを再調整し、超微細構造を測定した。なお、調整前後で測定結果は無矛盾であった。 (3》ガスによる系統誤差の研究を行った。ポジトロニウム生成位置分布や、マイクロ波印加によるガス密度の変化を測定し、いずれも大きな系統誤差とはならないことを確認した。
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