維管束形成の制御に関して、オーキシンやサイトカイニン、ブラシノステロイドといった植物ホルモンの重要性が明らかとなっている。また近年では、低分子からなるCLEペプチドが維管束形成時の細胞間相互作用に関与することが報告されてきている。そこで私は、CLEペプチドを中心として、これらの細胞内シグナリング機構を調べ、植物ホルモンや他の細胞間相互作用因子との相互作用を明らかにすることで、維管束形成を支配する細胞外因子のネットワークの統合的理解を目指している。 CLEペプチドの網羅的投与実験から、あるペプチド群が根の原生木部形成を阻害することを明らかにした。マイクロアレイを用いたトランスクリプトーム解析からCLEペプチドと植物ホルモンサイトカイニンとのクロストークが原生木部形成の領域決定に重要であることを見出した。以上の成果は国際誌Plant and Cell Physiology 2011年1月号に掲載され、clv2の根の三次元構築写真が表紙を飾った。 他にも、道管分化の制御機構を明らかにするため、TDIF-TDRシグナル伝達経路の解明を目指した。TDIF(CLE41/44)の受容体であるTDRの細胞内キナーゼドメインを用いた酵母ツーハイブリットスクリーニングにより、あるキナーゼ群(TDR-Interacting-Kinases)がTDRと特異的に結合することを見出した。これらの細胞内局在を調べるため、N.benthamianaを用いたアグロ形質転換法により、CFP及びYFPを融合させたTDR及びTIKを一過的に発現させた。TDRは35sプロモーターを用いた発現系では、うまく発現しなかったので、エストラジオール誘導発現系に変えたところ、誘導後24時間目に細胞膜に安定して強い発現がみられた。一方でTIKは細胞膜、細胞質、核において蛍光のシグナルが観察された。この条件下でYFP-CFP間のFRETを観察したところ、TDRとTIKは細胞膜において相互作用することが明らかとなった。実際にTIKの機能欠損多重変異体では、TDIF応答が低下することから、TIKがTDIFシグナル伝達において重要な役割を果たしている可能性が示唆された。
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