研究課題/領域番号 |
10J07543
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
近藤 侑貴 東京大学, 大学院・理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 維管束形成 / ペプチドホルモン / 植物ホルモン / 細胞分化 / クロストーク / シグナル伝達 / 幹細胞 |
研究概要 |
植物の肥大成長を支える分裂組織として、形成層が知られている。形成層は、維管束幹細胞を有しており、分化・分裂を繰り返すことで、維管束領域の拡大に貢献している。継続的な肥大成長の実現にあたっては、これら幹細胞が維持され続ける必要があり、そのためには幹細胞の分化・分裂の制御は極めて重要となってくる。維管束幹細胞の維持に関わる因子として、CLEペプチドの一種であるTDIFとその受容体TDRが知られている。TDIF-TDRは幹細胞の自己複製の促進と分化の抑制という二つの異なる生理的な機能をもつことがわかっているが、それらがどのようにして維管束幹細胞の維持に貢献しているのか、その詳しい分子メカニズムはよく分かっていない。そこで、本研究では、TDIF-TDRのシグナル伝達経路に着目をし、幹細胞の維持機構にせまることにした。 まずはじめに、Y2Hスクリーニングより、あるキナーゼ群(TDR-Interacting-Kinases》がTDRと特異的に結合することを明らかにした。遺伝学的解析から、TIKがTDIF/TDRのシグナル伝達において、幹細胞の分化の抑制の経路にのみ関与し、自己複製促進の経路には関与しないことが示唆され、TDIFの二つの機能は下流経路に分けられる可能性が考えられた。これまでにTDIF下流の自己複製促進には、WOX4と呼ばれる転写因子が関わることが知られている。そこで、次にTIKとWOX4の遺伝学的解析を明らかにするため、TIKの阻害剤及びwox4変異体を用いて、胚軸の維管束の表現型を解析した。TIK阻害剤処理単独では、木部と節部の間に存在する幹細胞が維持されなくなるtdr表現型が約3割程度でみられるのに対し、wox4変異体背景でTIK阻害剤を処理すると、約8割程度の個体でtdr表現型が観察された。以上の結果から、幹細胞の維持においては、幹細胞自身の増殖の制御と分化の制御の両方が重要であることが示唆され、植物幹細胞維持の制御機構を分子レベルで明らかにしたはじめての例である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
幹細胞の分化の制御だけでなく、分裂の制御との関係に関しても、興味深い新しい知見が得られた。これらの結果をもとに、幹細胞維持の新たな概念を提唱できたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
植物幹細胞の働きを明確にしていくために、幹細胞の維持機構をもとにして、幹細胞の分化多能性に関しても今後知見を得ていく必要がある。
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