研究課題/領域番号 |
10J07555
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
林 克洋 広島大学, 大学院・理学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 宇宙線スペクトル / Fermi衛生 / 放射線 / シリコン検出器 |
研究概要 |
宇宙空間を高速で飛来する荷電粒子"宇宙線"は、星間物質と衝突することによってγ線を放射する。このγ線を観測することで、その場の宇宙線のエネルギーや空間分布を明らかにすることができる。私は最新鋭のγ線観測衛星Fermiの能力を駆使することで、太陽系近傍の分子雲からのγ線を測定し、近傍の宇宙線分布を初めて明らかにすることを目標にしている。今年度は、昨年度に引き続き比較的質量の小さいカメレオン座分子雲と南の冠座分子雲の解析を進めるとともに、これらの分子雲とは反対の方向にあるケフェウス・ポラリス分子雲領域の解析も加えた。この三つの領域と太陽系内で直接測られている宇宙線スペクトルを比較することで、太陽系近傍における宇宙線分布の議論について現在論文にまとめている。昨年度の時点で解析手法そのものは確立したものの、このような広がった放射成分は、個々のγ線天体からの放射以外にも、宇宙線電子と星間光子による逆コンプトン散乱や、検出器および銀河系外天体からの一様な放射などの寄与が加わる上、そのモデルによる不定性やガスの密度、あるいは解析すべき領域の位置による不定性が発生し、それを正確に見積もることは非常に大変な作業となった。しかしそのような考えられる不定性を踏まえても、太陽系近傍の領域で宇宙線スペクトル強度に数10%程度の違いがみられており、このことは宇宙線強度の分布は太陽系近傍ではほとんど一様であると考えられている中で、非常にインパクトのある結果となる。その真偽性について、Fermi衛星チームの会合やネットワーク上のミーティングさらに日本天文学会にて度重なる議論を重ねており、ほぼ決着は固まりつつある。論文についても大筋は既に執筆できており、間もなく投稿できる段階にある。 一方で私は、このような宇宙線測定に欠かせない次期X線衛星のシリコン検出器の開発も行っている。今年度は主に広島大学の施設や放射線医学総合研究所にて、その軌道上での放射線耐性試験を主導して行い、検出器が10年程度の放射線環境にあっても放射線損傷の影響は十分小さいことを確認した。この結果は検出器の国際会議や天文学会でも口頭発表しており、論文としても投稿した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初は、カメレオン座分子雲と南の冠座分子雲との解析結果のみで太陽系近傍の宇宙線分布について議論を行い、初期成果として論文投稿の予定であった。論文ドラフトも書き上げ、7月の時点では投稿の直前までいっていた。しかし、領域によって宇宙線強度が数10%程度のばらつきをもつ結果について、それが確かであるかどうかがFermi衛星チーム内の真偽に問われた。非常に正確な系統誤差の見積もりにやや時間がかかっている。
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今後の研究の推進方策 |
3月にイタリアで開かれたFermi衛星の会合で本研究についての発表ならびに議論を行い、ようやく再論文化に対する方針が固まった。結果の大筋はこれまでと変わらず、論文も既にベースは出来上がっているので、4月中の投稿を目指す。その後は、別の方向にある分子雲の解析に着手する。その上でこのような宇宙線強度のばらつきが、宇宙線加速源の最有力候補である超新星残骸や中性子パルサーなどの位置関係と関係があるか調査に入る。一方でFermi衛星が打ちあがって4年目を迎え、十分な統計がたまってきた。それを駆使して、一つの解析領域内に宇宙線強度に違いがないか精査する。これらの結果は、博士論文にまとめる予定でいる。
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