本年度は、前年度までに達成した硫化カルボニル(OCS)の消失反応である光解離、酸素ラジカル、OHラジカルによる同位体分別を学術論文に発表し、さらに素過程における分別を考慮したモデルを用いて成層圏大気化学を考察した。その結果、同位体のマスバランスより、バックグラウンド成層圏硫酸エアロゾルの起源としてOCSは矛盾しないことを明らかにした。また、前年度に実験によって求めたOCSの光解離における波長依存同位体分別を、第一原理計算を用いた再現することに成功し、結果として発表した実験結果と相補的な結果を得た。さらに、理論計算からもOCS光解離は質量非依存分別を引き起こさないことも明らかとなり、現世の酸化的大気で観測される硫黄の質量非依存分別にはOCS由来の硫黄化合物は関与していないことが示唆された。 また、大規模火山噴火の際に生じる成層圏硫酸エアロゾルに関する研究でも成果を得た。本年度は、二酸化硫黄(SO_2)の光励起領域の紫外線吸収断面積の計測結果を共同で学術誌に発表した。その結果を組み込んだ火山噴煙のプルームモデルを用いることで、成層圏での大気化学反応により硫酸の硫黄安定同位体比が変化するメカニズムの解明に成功した。この結果、SO_2の光励起反応によって引き起こされる質量非依存分別によって極域の雪やアイスコアの記録を初めて再現した。今後、硫黄同位体記録を用いた火山噴火の規模や気候への影響の定量的な復元への展開が期待される。以上の結果を米国アカデミー紀要に発表し、プレスリリースを行った。
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