研究概要 |
水素結合を基調とする物質の構造変化を観察することを目的として、高圧下での粉末中性子回折実験を可能にするための高圧発生装置を設計・開発した。より大容量の試料と高い圧力発生を目指して、Paris-Edinburgh press(以下P-Eプレス)と呼ばれる既存の高圧装置のセル部分を改良した。まず、回折強度を向上させるために、初期試料体積は減らすことなく、開口角を拡げ、さらにガスケットやアンビルからの吸収を最小限に抑えるようなセルデザインを確立した。また,P-Eセルでは困難であった迅速で正確な圧力決定を行うために、中性子回折測定と同時のルビー蛍光測定を可能にする光学窓付きアンビルを開発した。 既知の圧力標準物質を試料として、放射光X線や電気抵抗測定により圧力発生テストを繰り返した。その結果、発生圧力は最大13GPaに達し、超硬タングステンカーバイドの強度限界と同程度までの圧力が出せることが分かった。また、ルビー蛍光測定で少なくとも10GPaを超えるまでアンビルの破壊なく、静水圧性のよい状態で短時間での圧力測定と中性子回折測定が初めて可能となった。さらに、標準物質を用いて改良したアンビルと従来のアンビルとの中性子散乱強度を比較した結果、同じ初期体積試料に対して、回折強度は3倍でアンビル由来のバックグラウンドも小さいことが分かった。これらは、今後の中性子回折実験に大きな進展をもたらす結果と期待される。このアンビルを用いてCa(OD)_2の10GPa以上での中性子回折測定も行い、6GPa以上で高圧相由来の新たなピークの出現を確認し、中性子回折では初めてCa(OD)_2の高圧相を観察に成功した。同じ強度を得るまでの測定時間は先行研究に比べて大幅に短縮し、本研究で開発したセルを用いて精度よいデータを得られることが明らかとなった。
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