研究課題/領域番号 |
10J07593
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
飯塚 理子 東京大学, 大学院・理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | 中性子回折 / 高圧地球科学 / 高圧装置開発 / 水素結合 / 水酸化物 / J-PARC / 結晶構造 / 相転移 |
研究概要 |
水素結合を基調とする物質の圧力誘起相転移における結晶構造変化を詳細に調べることは、物質科学の分野に新しい知見を与えるだけでなく、地球内部の理解を深めることにもつながる。本研究では、地球深部まで水を運搬する含水鉱物のモデル物質とされている、水酸化カルシウムに着目し、この物質の未知の室温高圧相の構造を同定することを目的として、ダイヤモンドアンビルセルを用いた単結晶X線回折実験による高圧下その場観察を行った。また、解析に必要な十分な数の反射をより多く得るために、広い開口角を持つダイヤモンドアンビルセルへの改良も行った。 片方のダイヤモンドの先端面中心にエキシマレーザーを用いて底面が平らな凹みを掘った、"Radial-DAC"を開発し実験を行った。この凹みの中に単結晶試料を入れ、加圧軸に垂直に開いた窓を通して、入射X線を照射し回折X線を検出する測定系で、イメージングプレートを用いて高圧相のブラッグ反射を測定した。この新しい高圧装置と高輝度なX線を組み合わせて得られた振動写真の解析から、室温高圧相の構造とその相転移メカニズムが明らかになった。これは、これまでの先行研究では非晶質化すると考えられていた水酸化カルシウムの圧縮挙動における新しい発見であり、大変重要な成果であると言える。 将来的には、この水酸化カルシウムの高圧相の水素位置と低圧相からの水素結合の変化の詳細を知るために、大強度陽子加速器施設J-PARCのパルス中性子を利用した、高圧下での粉末中性子回折実験の実現を目指している。昨年度、および本年度前期には、中性子回折と分光測定の同時観察を可能にするためのアンビルとガスケット部分の改良も行った。これにより、静水圧のよい条件下で、水酸化カルシウムの室温高圧相の回折パターンをより短時間で測定することが可能なセルの準備が整った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年の東日本大震災の影響で、茨城県東海村にある大強度陽子加速器研究施設(J-PARC)での中性子回折実験が今年度は全く行えなかった。そのために、当初の計画以上の達成は非常に難しかった。しかし、中性子回折実験に向けた予備実験において進展が見られ、研究全般としては新しい知見も得られ、おおむね順調に進展した。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、J-PARCでの中性子回折実験が実現・成功するように、今後も予備実験等、準備を進めていく。実際の中性子回折実験においては、様々な測定上の問題が生じることが予想される。この対処に向けて、これまで開発を進めてきた装置、適宜改良を加え、最適化を行う。さらに、新しいサイエンスの知見を得ることを目的として、さまざまな化合物を対象とした高圧中性子回折実験が行えるように、汎用的な装置への改良を目指す。
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