研究概要 |
これまでに共同研究者らによって、消化管の一部である後腸が左右非対称な形態に発生する際、捻転前に観察される上皮細胞の形状の歪んだ性質が重要な働きをしていることが示唆されています(Taniguchi et al., Science, 2011)。私は、この過程において、上皮細胞の形状変化が生み出す「機械的な力」が重要な働きをしているのではないかと考えました。さらに、この「機械的な力」を定量化することにより、後腸が左右非対称な形態に発生する過程において重要な知見が得られると考えました。そこで、後腸が左右非対称な形態に発生する際に必要な「機械的な力」を定量化するために、以下の2つの実験を遂行しました。 (1)後腸の培養実験 まず、後腸自身が捻転に必要な「機械的な力」を生み出しているのかどうかを確かめるために、胚より単離した後腸の培養実験を行いました。その結果、胚より単離した後腸は培養液中において、生体内と同様に捻転することが明らかとなりました。このことより、後腸自身が捻転に必要な「機械的な力」を生み出していることが示唆されました。 (2)磁性ビーズを用いた後腸が左右非対称な形態になる際に必要な「機械的な力」の定量化 後腸の培養実験から、後腸自身が生み出す「機械的な力」が捻転に必要であることが示唆されました。この結果より、外部より加えた力により私は後腸の捻転を止め、そのとき加えた力を定量化することで、後腸自身が生み出す「機械的な力」を見積もることが可能なのではないかと考えました。そこで、外部からの力として磁力を用いて、後腸の捻転を止める実験を行い、さらに、そのとき加えた磁力を定量化しました。その結果、後腸の捻転に必要な力は、約6nNであることが明らかとなりました。 以上の2つの実験により、後腸が左右非対称な形態に発生する際、後腸自身により生み出される約6nNの「機械的な」力が必要であることが示唆されました。
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