代表者は、超効率的なエネルギー伝達を行う海洋性カロテノイド、ペリジニンが持つ特異な官能基の役割を明らかにすることを目的としている。今年度は、ペリジニン類縁体の創製、およびアンテナ複合体へ類縁体を組み込むことによってエネルギー伝達効率を計測することを計画した。まず、ペリジニンが形成するアンテナ複合体(PCP complex)の周りのアミノ酸残基の影響を考慮し設計した、イリデンブテノリド環をシフトさせたペリジニン類縁体の合成法の確立とアンテナ複合体への類縁体の組み込みを試みた。この類縁体は、新たな3成分連結型の合成法を開発することによって、その合成を達成した。この合成法は、任意の位置にイリデンブテノリド環を導入できる適用範囲の広い手法である。 さらに、これまでに得ている分光学的知見の一般性を検討するため、ペリジニンと同様の機能を有するフコキサンチンにも焦点を当てた。フコキサンチンを有するアンテナ複合体、FCP complexは、PCP complexと比べると容易に入手可能なため、類縁体を用いたエネルギー伝達効率の測定実験をこれまでより効率的に行うことができる。しかしながら、フコキサンチンは、非常に不安定な部分構造を有するため、これまで合成例は1例しかなく、またその合成手法も立体化学を制御できていなかった。代表者は、類縁体合成に適用可能な新たな合成法の開発を試み、効率的かつ立体選択的な全合成を達成した。これによりフコキサンチン類縁体の分光学的測定を行うことで得られた分光学的知見の一般性を確認し、さらにアンテナ複合体への組み込み実験が大きく進展することが期待される。一方、これまで合成したペリジニン類縁体のアンテナ複合体への組み込みは、ペリジニン類縁体と周辺タンパクとの複雑な相互作用のため、まだ観測されていないものの鋭意進行中である。
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