宇宙の距離指標であるIa型超新星はどれも同様な性質を示すと考えられているが、近年の観測によれば、実際には完全には一様ではないことが分かってきた。ところが、その起源は理論的には分かっていない。 今年度は、特異なIa型超新星の明るさの多様性に着目し、その爆発機構の解明を目指すことに重きを置いた。具体的には、様々なパラメータの異なる爆発モデルを構築して輻射輸送計算をし、得られた多色の光度曲線を観測と比較することによって、観測された特異なIa型超新星やその親星についての性質に迫ろうとするものである。成果として、観測史上最も明るいIa型超新星であるSN2009dcに関して、 ・典型的なIa型超新星のような、チャンドラセカール限界質量(約1.4太陽質量)の白色矮星の爆発モデルでは、観測されたSN2009dcの光度曲線を説明できず、より重い(太陽の2倍以上の重さを持つ)白色矮星の核爆発を考える必要があること、 ・SN2009dcの母銀河による減光を無視したとしても、光源であるニッケル56は少なくとも1.2太陽質量も必要であること、 ・今回計算した爆発モデルの中では、母銀河の減光を考慮すれば、親星は2.8太陽質量で、かつ、1.8太陽質量のニッケル56を持つモデルが、観測を最も良く説明すること、等が得られた。SN2009dcの親星の性質について理論的に明らかにした研究はこれが初めてである。しかしながら、このような成果は観測との比較のみで得られたものであり、その他の観点、例えば、重い白色矮星の核爆発がこのような大量のニッケル56を生成するのか、についての詳細な理論計算がない。また、輻射輸送計算における不定性も少なからず存在しており、更に詳しく調べる必要はある。その他、極めて暗いIa型超新星についても、同様のアプローチを用い、その性質に迫ろうとしている。
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