まず、5月に幕張メッセで行われた地球惑星科学連合大会において、月の盆地の地形・重力場から推定された、熱構造の時間発展に関する研究結果を発表した。本研究では、定常温度構造を仮定し、複数の異なる温度構造を与えて数値計算を行った。 その後、惑星内部の温度構造の時間発展を取り入れた粘弾性体計算プログラムの開発を行った。まず、第一段階として、熱伝導による冷却の効果のみを取り入れた。本コードを用いて、初期にほぼ全溶融し、その後単調に冷却していく惑星の表面地形変化を計算した。その結果、冷却による効果は長波長ではほとんど見られない一方で、短波長で強く見られることなどが明らかになった。本結果は、月などの小天体の地形・重力場解析において、冷却の効果を取り入れる必要性を明らかにした。 その後、計算プログラムの改良を進め、放射壊変熱の効果を取り入れた。そして、月の盆地地形の長期粘弾性変形に与える影響を定量的に調べた。この結果は、11月に北海道大学で行われた研究会で発表された。 そして、日本の月探査衛星「かぐや」で得られた最新の地形・重力場データとの詳細な比較を行った。我々は新規開発の計算コードを用いて、アイソスタシーを超えるマントルアップリフトを数十億年維持するのに必要な発熱量の上限を、盆地毎に見積もった。その結果、月地殻深部における放射性元素濃度には、非常に大きな地域差が必要であることが示された。月地殻深部における放射性元素濃度は、直接計測することができない。本研究は、地形・重力場という測地学的観測から、放射性元素濃度という物質科学に挑戦した画期的な研究である。この結果は、まず、「かぐや」メンバー中心で行われた国際会議にて発表された。その後、計算パラメータを追加した詳細な解析を進め、結果を更新しつつ複数の学会等で発表、そして短い論文を執筆した。
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