研究概要 |
本研究対象である放散虫は大きく5目に分けられ,そのうちのCollodaria目の系統関係及びその進化パターンが過去の溶存シリカ濃度に関連していることを明らかにした.本研究内容は分子生物学的手法を用いて放散虫の進化と古海洋学的事変の関連を明らかにした,初めての論文であり,古海洋学的に重要な知見が得られた. 放散虫の初期進化を明らかにするために,放散虫を含めた真核生物スーパーグループのRhizaria内におけるペプチド伸張に関連する遺伝子の系統関係を明らかにした.本研究により,Rhizaria内のペプチド伸張因子遺伝子の複雑な進化パターンが明らかとなり,放散虫と有孔虫を共に姉妹群とするレタリア仮説を強く支持する結果が得られた. 放散虫の形態種内の遺伝的多様性を評価するために北太平洋赤道域一亜熱帯域で採取されたSpongotrochus glacialisのInternal transcribed spacer(ITS)rDNA遺伝子を解析し,その遺伝子型を明らかにし,遺伝子型毎の形態的特徴を形態分析から抽出した.本研究により,放散虫では今まで知られていなかった隠蔽種(形態的に区別できないが遺伝的に異なる種)の存在が確認された.また,その進化パターンから,本種の進化パターンが過去の海洋循環系の発達と密接に関連していることを明らかにした.本種は堆積物から多量に産出し,古海洋環境指標としても用いられる種であり,その遺伝的多様性及び形態的特徴が明らかになったことにより,古海洋環境指標としての本種の有用性が飛躍的に高まった.
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