まず、カフェンストロールを処理した植物体から全脂質を抽出し、脂肪酸の定量解析を行った。その結果、カフェンストロールの処理濃度依存的に極長鎖脂肪酸の減少が引き起されることが解った。一方で、極長鎖脂肪酸の前駆体である、長鎖脂肪酸の含量は減少していなかった。したがって、植物体において、カフェンストロールが極長鎖脂肪酸合成の阻害剤として有効であることが確かめられた。 次に、カフェンストロールを植物体に処理し、種々のマーカー遺伝子の発現を観察した。その結果、極長鎖脂肪酸合成が低下すると、サイトカイニンの主要な合成酵素をコードするIPT3の発現が組織レベルで増大し、サイトカイニン含量が増加することが解った。 カフェンストロールを処理すると、組織レベルで細胞増殖の活性化が引き起されるが、この効果は、サイトカイニンの分解酵素(CKX)を個体全体で過剰に発現すると抑圧されることをこれまでに明らかにしている。22年度は、CKXを発現させる部位を限定した場合にも、表現型が抑圧されるか検討した。その結果、維管束でのみCKXを発現させることで、カフェンストロール処理によって引きおこされる、細胞増殖の活性化が抑圧されることが解った。一方で、表皮でのみCKXを発現させても、カフェンストロール処理による細胞増殖の活性化は全く抑圧されなかった。したがって、表皮において合成された極長鎖脂肪酸が、維管束におけるサイトカイニン合成を細胞非自律的に制御し、植物体全体の細胞増殖を制御しているという、これまでに報告のない経路の存在が明らかとなった。尚、極長鎖脂肪酸は植物の表面を覆うクチクラの材料としても利用されるが、クチクラに異常を持つ変異体では細胞増殖の活性化が観察され観られなかったことなどから、クチクラ形成とは独立した経路で細胞増殖が制御されていると考えられる。現在、これらの成果をもとに、論文投稿を準備している。
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