研究課題/領域番号 |
10J07689
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
竹内 勇一 名古屋大学, 大学院・理学研究科, 特別研究員(SPD)
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キーワード | 左右性 / 右利き・左利き / 種内二型 / シクリッド / 捕食行動 / 神経基盤 / マウスナー細胞 / タンガニイカ湖 |
研究概要 |
鱗食魚Perissodus microlepisは、獲物とは少し離れた距離から急激に接近して鱗をはぎ取ることから、捕食行動には視覚情報が重要であると考えられる。捕食行動を明条件と暗条件で観察すると、同程度の襲撃回数であった。しかし、暗条件の方がその捕食成功率は有意に低く、被食魚への回り込み、構え、胴に噛みつく際の屈曲運動が見られる割合が著しく低下した。これは、明条件では獲物の位置や姿勢を視覚的に判断して襲うが、暗条件ではその捕食行動の左右性が失われる事を意味する。これらの結果、捕食行動の左右性には、視覚情報は重要であることが明らかとなった。 魚類のM細胞は進化的によく保存された神経細胞と言われているが、本種のM細胞の知見はなかった。そこで電気生理学的、形態学的に同定し、キンギョや他の食性のシクリッド(Cyphotilapia frontosa,Aulonocranus dewindti)と比較した。鱗食魚のM細胞は他の魚類と同様に、後脳に左右一対で存在し、2つの巨大な樹状突起(側方・腹側)を持ち、その軸索は反対側へと伸びていることが分かった。 神経活動に伴う神経細胞内へのカルシウムイオン流入が引き金となり、Immediate early genesは発現する。なかでも実験手順が簡便なArcを採用することにしたが、魚類のM細胞では調べられていなかった。そこで、音刺激によって逃避行動をさせたキンギョの脳切片を調べた。逃避させた場合、M細胞内のArcタンパクの発現は無刺激のコントロール個体よりも有意に上昇することを見出した。すなわち、M細胞の神経活動をImmediate early genesの免疫染色法によりモニターする方法を確立した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究がスタートしてから初めての論文(鱗食魚の捕食行動における運動の左右差)が、PLoS ONEに掲載された。それに続く興味深いデータも出てきており、Immediate early geneに関しては、現在論文を執筆している。
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今後の研究の推進方策 |
鱗食魚の電気生理学的実験は、本種が操作に弱くすぐに死亡してしまうために困難を極めているが、Immediate early geneを用いた神経活動をモニターする方法を確立したことにより、研究目的に沿った実験を進めることができている。 暗黒下での捕食行動実験は、捕食行動の左右性にとって視覚入力が不可欠であることを示した。これは、捕食行動の左右性の責任領域が視覚系にあることを強く示唆している。今後、捕食行動と視覚入力の関係に関して、詳しい精査を試みる。
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