研究概要 |
社会的迷惑行為とは,歩行を妨げる駐輪など,周囲の他者に不快感を与え,不便さをもたらす行為である。 研究1では,「きれいに駐輪していただきありがとうございます」など,感謝を表した上で社会的迷惑行為の抑止を求める感謝メッセージの効果と抑止プロセス,調整要因を検討した。感謝の言葉で丁寧にお願いをされると,受け手はその好意に対するお返しを動機づけられ,感謝メッセージに従って社会的迷惑行為を抑制しようとする。研究1を通して,受け手のこのような心理的プロセスが"互恵性規範"(Gouldner,1960)によるものであることを提唱した。こうした互恵性規範の喚起による社会的迷惑行為の抑止方法は,受け手の反発心を招くことなく自発的に当該行為を抑制させる点で有用な方法と考えられる。 研究1に関して,2011年度では,感謝メッセージの効果を効率的に促進する"送り手の情報"の有用性を実証した。この結果について,(1)昨年度実施した調査で得られた結果を国内の学会にて発表し,学術雑誌にも投稿した。さらに,(2)愛知県内の大学生を対象に質問紙調査を実施し,データを分析してこれらの結果の頑健性を明らかにした。 研究2では,対人場面での好意の提供(飲み物をおごる,面倒な仕事をやってあげるなどの親切行為)でも社会的迷惑行為が抑止されるかどうかを検討した。その結果,そうした好意の提供であっても,研究1の感謝メッセージ同様に,互恵性規範の喚起によって社会的迷惑行為が抑止されることが示された。ただし,その効果を補強するための条件が必要であることも明らかとなった。 研究2の成果に関して,2011年度では,(1)昨年度実施した実験で得られた結果をまとめ,国内外の学会にて発表し,国内の学術雑誌に投稿した。さらに,(2)愛知県内の大学生を対象に実験室実験を実施し,そのデータを分析してさらなる結果を得た。(3)最後に,(2)の実験結果を国内外の学会で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究1では,当初の予定どおり,感謝メッセージが社会的迷惑行為を抑止するプロセスと調整要因を明らかにするデータを得られた。その知見は学会で発表され,投稿論文としても発表される予定である。研究2に関しても,対人場面での好意の提供が社会的迷惑行為を抑止することが明らかとなるデータが得られ,学会発表等で成果が発表されている。目的とするデータが得られ,成果も少しずつ公表されていることから,研究の進捗状況はおおむね順調と言える。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の今後の推進方策としては,以下のことを予定している。 (1)研究1に関するさらなる調査と実験を行う。特に,実験的検討がやや不十分であるので,実験方法を入念に計画し,実施することが課題である。(2)研究1,2の成果を国内外の学会および学術雑誌で引き続き発表する。(3)研究1,2の成果をまとめ,博士論文として執筆する。(4)感謝の言葉かけの効果に着目した心理教育的介入プログラムの開発(研究3)に関しては,少々計画が遅れている。研究1,2を構築させた上で研究3の応用研究を実施する予定であったが,研究1,2の基礎研究は完全に確立されたとは言えない段階である。そのため,研究1,2を優先的に進めた後の長期的な計画として研究3の実施を検討している。
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