平成22年度では、「魚類下垂体ホルモンのソマトラクチン(SL)の分泌と合成に及ぼす視床下部ホルモンの影響」という研究課題のもと、下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ポリペプチド(PACAP)によるソマトラクチン(SL)の遺伝子発現に及ぼす影響を探る実験に取り組んだ。真骨魚類であるキンギョのSLには2分子種(αとβ)存在することが分かっている。研究の結果、キンギョ下垂体細胞においてPACAPはSL-α遺伝子発現を抑制的に、一方で、SL-β遺伝子発現を亢進的に調節するという新知見を得ることに成功した。さらに、遺伝子発現制御に至る細胞内情報伝達経路の同定を進め、PACAPによるSL-β遺伝子発現はPAC_1受容体と共役したアデニル酸シクラーゼ/cAMP/プロテインキナーゼA(PKA)経路を介し、細胞外シグナル調節キナーゼ(ERK)の活性化を経て発揮されることが明らかとなった。SLの遺伝子発現制御機構は未だ不明な点が多く、PACAPの作用機序は視床下部ホルモンによるSL遺伝子発現制御機構のモデルとして提唱できる。また、PACAPにより各SLの遺伝子発現制御が異なることも興味深く、PACAPによるSL-α遺伝子発現抑制機構の同定も進めているところである。また、SL-αとSL-βをそれぞれ特異的に認識できる特異抗体の作成にも取り組みつつあり、タイターの上昇した抗血清を作成し、解析を進めている。 平成23年度では、引き続きSL2分子種の遺伝子発現制御機構の解析に取り組むと共に、作製した抗体を用いて各SLの分泌制御機構の解析を行っていく。また、各SL遺伝子発現に関わる転写因子を推定するため、各SL遺伝子の5'上流領域の同定を行っていく。
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