研究概要 |
本研究の広視野・高感度カメラの開発により10'程度に広がった銀河団の観測が可能となり、Thermal SZだけでなくKinetic SZ効果(Sunyaev and Zeldvich,1980)の観測を通して宇宙の速度場を求めることができるようになる。 カメラの検出器にはマイクロ波を使って超伝導薄膜の表面インピーダンスの変化を読み取る共振回路検出器(MKID)を採用した。MKIDの利点は、多素子化の際に鍵を握る多重読み出しが容易で、超伝導膜1層で構成できる単純な構造をもち高い歩留まりを期待できる点にある。 MKIDの雑音を下げるためには、超伝導伝送線路の表面インピーダンスの理解が不可欠である。しかし、NbNなどではMatthis-Bardeen理論と比べて2ケタ近い超過損失を持つことが知られていたがその物理的解釈についてははっきりとしていなかった。そこで、複素数へと拡張した超伝導ギャップエネルギーをMatthis-Bardeen理論に適用することで超過損失を説明できることを初めて示した。またこの計算手法を適用することで、NbN MKIDのQ値の温度変化(0.3-10K)の実験値と理論値を一致させることができた。NbNを用いた検出器の性能評価を通して、検出器を構成する超伝導の膜質が感度向上のカギを握ることが明らかとなった。そこで、国立天文台にて分子線エピタキシー装置を立ち上げ、結晶からアモルファスまでのAl膜を製作し、膜質と検出感度の関係を詳細に調べた。成膜中の基板温度及び成膜スピードを制御することで様々な膜質のAlを成長させることができる。またX線回折解析装置を使い結晶成長させたAl膜の結晶方位を調べたところSi(100)基板ではAl(110)が、Si(111)上にはAl(111)が形成されることを明らかにした。 Al膜の質と共振器のQ及び雑音の関係を相関づけながら開発を行った結果、共振のQが500000以上、周波数雑音が190dBc/Hz以下という結果を得た。また、可視光パルスをいれることで求めた準粒子寿命は150usであった。これらの結果から導出される検出器感度は5^*10^(-17)W/Hz^(1/2)以下と地上での大気雑音限界を下回っている
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