研究概要 |
本研究では、高分解能だが視野の狭いALMAと相補的な役割を果たすミリ波・サブミリ波帯での広視野・高感度多素子カメラの開発を目的としている。この研究により10'程度に広がった銀河団の観測が可能となり、Thermal SZだけでなくKinetic SZ効果(Sunyaev and Zeldvich,1980)の観測を通して宇宙の速度場を求めることができる。この観測から現在様々な理論モデルが提案されている宇宙定数に対してより厳しい制限を与えることが期待される。 私が属する研究グループは1000素子以上で構成されるミリ波カメラを開発することを最終目標としているが、本研究では試作機として観測波長1.36mm帯用9素子カメラ及び0.68mm帯用102素子カメラの開発を行った。具体的には高品質Al膜を用いた超伝導共振器検出器(Microwave Kinetic Inductance Detector:MKID)と、信号をセンサへと集光する役割のSiレンズを組み合わせて評価を行った。 検出器感度の向上のためにAl膜の成膜時の基板温度、パターニングプロセスなどのデバイス作製条件を変えながら特性を評価し、最適解探った。その結果100℃程度の低い基板温度で成膜し、Al膜の表面粗さが良いデバイスが高感度であること明らかになり、ミリ波帯としては世界最高レベルの6*10^(-8)W/Hz^(1/2)を得ることができた。 ミリ波カメラの光学効率測定のため、冷凍機内部に黒体放射源をとりつけ、放射源の温度を調節することでカメラに入射する信号強度を変化させられる装置を開発した。この装置を用いてカメラの評価を行い、光学効率が15%程度、8Kの輻射下でのカメラの感度が5×10-15W/Hz1/2であった。 想定よりも光学効率・感度ともに低くとなってしまったのは、光学系の問題ではなくMKIDの構造に起因すると考えている。MKIDは、光子がやってくるとMKID内部に電子が励起されこの励起された電子数を数える仕組みとなっているが、現状ではMKIDと配線層・グラウンド層がつながっているために、励起された電子がMqD外に逃げてしまっていると推定される。この励起電子の散逸を防ぐことが、今後の大きな課題の一つである。
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