有性生殖をおこなう生物にとって、受精は種を維持するための重要な現象であり、その達成のためには配偶体が正しく形成され機能する必要がある。本研究では、被子植物の雌性配偶体に着目し、これを構成する固有の働きをもつ各種細胞を調べることで、それぞれの機能がどのような発生様式や遺伝子発現様式よって獲得されるかを明らかにすること目的とした。 本年度はまず、これまでに当研究室で開発したトレニアの雌性配偶体の培養系を改良した。これにより、胚嚢細胞の4核期から3度目の核分裂を経て細胞化が起こり、卵装置が形成される雌性配偶体形成の詳細な過程をライブイメージングでとらえることに成功した。細胞化直後から卵装置の発達にともなって、中央細胞の極核が胚嚢内をダイナミックに動き、合点側にあるもう一方の極核と中央細胞の中心辺りに集まる様子も観察された。この実験系と花粉管誘引物質を蛍光タンパク質で可視化した形質転換植物を用いた解析により、花粉管誘引物質が細胞化後から十数時間で助細胞において発現することが確認できた。また、未熟な時期の卵細胞をUVレーザーで除去しても、2つ残った助細胞では花粉管誘引物質が発現する例が見られた。 これまでに取得したシロイヌナズナの雌性配偶体を構成する野生型の助細胞と卵細胞、さらに花粉管誘引に異常を示す変異体の助細胞を用いた大規模発現解析データの解析をおこなった。オープンデータベースにある栄養器官についての発現解析データとの比較をおこない、各サンプル間で発現変動の大きい遺伝子を絞り込んだ。
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