長距離相互作用を持つ系のゆらぎの性質を明らかにするため、統計力学によって長距離相互作用系の解析を行なった。その結果、非加法的な長距離相互作用を持つスピン系に対して次の事実を明らかにした。1、磁化が固定されていない状況では、長距離相互作用系の熱力学的性質は平均場理論によるそれと一致すること。2、磁化が固定されている状況下では、相互作用が非加法的長距離相互作用であったとしても平均場理論とは一致しないパラメータ領域があること、である。1の結果は、たとえ複雑な長距離相互作用がスピン間に働いていたとしても、それを単純な平均場理論による解析でおきかえてよいということを意味する。これは、長距離相互作用系の性質を明らかにするため、まずは簡単な平均場模型を調べようという考えに沿った近年のこの分野での多くの研究結果が実際に広いクラスの長距離相互作用系に対して正当化されることを示すものであり、重要な成果である。一方で、2は磁化が固定されている状況下では、平均場理論では予測できない、長距離相互作用系特有の非自明なゆらぎがあることを意味する。平均場模型では理解できない現象が起きるのはどういうときかを具体的に提示できたので、それではそのようなゆらぎによってどういった現象が予測されるかという次の問題につながる点で意義深い。長距離相互作用系では平均場理論が厳密に成り立つだろうという予想は過去になされていたが、それを実際に証明したのが1の結果であり、ただし磁化が固定されている状況下ではこの予想が必ずしも正しくないということを示したのが2の結果である。これは長距離相互作用系に広く見られるアンサンブルの等価性の破れの一例であり、ここで考えた以外のアンサンブルに対して、平均場理論が正当化されるか否かという問題が提起される。
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