複数の金属錯体を適切に組み合わせることにより、各金属の機能の足し合わせに留まらない相乗効果が発現することが、近年の研究により明らかにされている。このような背景の中、本申請者は酸化還元活性な有機金属錯体と、カルベン移動反応や酸化反応を始め、種々の触媒活性を有するメタロポルフィリンに着目した。本年はこれらをエチニル基で連結した複核錯体の協奏機能効果を利用したヘテロ不飽和結合の新規活性化法の確立を目指した。具体的には、一つ、もしくは二つの酸化還元活性な鉄及びルテニウムフラグメントを有するZnポルフィリン錯体を合成し、その物性評価を行った。分光学的、そして電気化学的特性を調査した結果、以下の二点が明らかとなった。 ・金属フラグメントからの強いπ逆供与により、これらの錯体のポルフィリン環の電子密度が高まり、TCNQやナフタレンジイミドと、電荷分離錯体やスタッキングによる複合体を形成 ・[Cp_2Fe]PF_6を用いた一電子酸化により、二核鉄およびルテニウム錯体は混合原子価状態を形成し、片側の金属フラグメントが受容した酸化還元による外部刺激を、架橋配位子を介してもう一方の金属フラグメントへと伝達する分子ワイヤーとしての機能を発現 電荷分離錯体やスタッキングによる複合化を利用すれば、ヘテロ不飽和結合を有する基質の触媒反応中心であるポルフィリン環への接近・固定が可能となることが予想され、新規高度活性化を目指す上で極めて有用な知見を得ることができたと考えている。
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