研究概要 |
近年、生体分子にヒントを得て、分子の高次構造を人工的に組み上げる機能性超分子の創製を目指す研究が盛んに行われている。しかしこれに生体酵素のような触媒活性及び立体制御能を付与し、キラル超分子触媒として機能させることは未だ困難なテーマである。本研究において、これまでにオニウム塩触媒のイオン対としての本質に注目し、イオン対全体の構造と機能を総合的に利用した真の「イオン対触媒系」の確立を目指す中で、アリールオキシドを対アニオンとするホスホニウム塩が、反応系中で自発的に組み上がり、高機能性の有機小分子会合型触媒としてふるまうことを明らかにしている。 今回、本触媒系の適用範囲の拡大を目指して他の求核種への適用を試みた。具体的には、アズラクトンを求核種前駆体として得た知見を基に、構造的類似性を持つブテノリド骨格を取り上げ、様々な親電子剤への適用を試みた。しかし、現在までにその精密な制御を成し遂げるには至っていない。そこで、より精密な反応設計を実現する上で、本会合型触媒の溶液中での詳細な挙動について調べる必要があると考え、これを並行して行った。その結果、低温NMR測定及び単結晶X線構造解析により、有機小分子会合型ホスホニウム塩が固体及び溶液状態において3種の異なる会合状態をとり、これらを任意かつ段階的に制御できる可能性を示唆する結果を得た。さらに、系中で選択的に調製したこれら3種の会合体を触媒とし、2位無置換アズラクトンのシンナミルベンゾトリアゾールへの共役付加反応を行ったところ、それぞれの会合状態を反映した反応結果が得られた。 この知見は、同一の構成要素から様々な会合状態を持つ触媒を自在に組み上げ、それぞれ異なる触媒として機能させ得ることを実験的に明らかにするものである,またこの事実は、触媒が形づくる反応場を精密に設計する上で強力な武器となることが容易に想像され、拡張性の高い方法論の開発につながることが期待できる。
|