近年、生体分子にヒントを得て、分子の高次構造を人工的に組み上げた機能性超分子の創製を目指す研究が盛んに行われている。しかしこれに生体酵素のような触媒活性及び立体制御能を付与し、キラル超分子触媒として機能させることは未だ困難なテーマとなっている。申請者は、オニウム塩触媒のイオン対としての本質に注目し、イオン対全体の構造と機能を総合的に利用した真の「イオン対触媒系」の確立を目指す中で、反応系内で自発的に組み上がる類例のないキラル小分子会合型触媒の創出に成功している。さらに、本超分子触媒に特徴的な振る舞いを分光学的に明らかにし、会合状態を自在に制御することで新しい分子変換を実現している。 今回、反応性アニオンに着目し、脱プロトン化/プロトン化に加えてアニオンを反応剤として利用した反応系開発に取り組んだ。具体的には、アズラクトンのアンビフィリックな反応性をホスホニウムアリールオキシドと組み合わせ、塩基性アニオンによる基質のラセミ化と、アニオンを求核剤とした開環を鍵とする動的な速度論的光学分割を目指した。しかし、現在までにその精密な制御を成し遂げるには至っていない。そこで並行して前年度に引き続き、キラル小分子会合型触媒を新たな反応系へ適用し、その可能性の追求を図った。その結果、本小分子会合型触媒の溶液状態における挙動を解析する過程で、新たな会合状態の制御法、すなわち溶媒の極性に依存した会合現象を見出した。さらに、これを利用することで2位無置換アズラクトンのニトロオレフィンへの高立体選択的共役付加反応を実現した。 この結果は、同一の構成要素から反応系に応じて望みの会合状態を自在に組み上げ、触媒として機能させ得ることを実験的に明らかにするものである。またこの事実は、触媒が形づくる反応場を精密に設計する上で強力な武器となることが容易に想像され、拡張性の高い方法論の開発につながることが期待できる。
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