本研究の目的は、遺伝子増幅法において誤検出等の原因の一つと目される、de novo DNA合成という現象に着目し、その機構を解明することによって遺伝子増幅を正確に行うための指針を見出すことである。遺伝子増幅の際、予期せず発生してしまう非特異的増幅を予防できれば、より正しい診断やターゲット遺伝子の収率の増加が期待できる。本年度私は、短い一本鎖DNA(短鎖ssDNA)がある特定の条件下において効率よく伸長されるという現象を見出し、その機構を解明することによって加novo DNA合成の機構を類推することを試みた。このような短鎖ssDNAが予期せず非特異的に増幅されてしまう現象は、現行法の遺伝子増幅法においてもしばしば発生するが、設計の変更によりある程度回避可能であるため重要視されてこなかった。具体的な実験として、2塩基の組み合わせの単純な9回反復配列(例:(AG)_9)からなる10種類の短鎖ssDNAを用い、これらが様々な一定温度条件下でどのように伸長されるか調べた。反応にはPCR等の遺伝子増幅法で多用される好熱性のDNAポリメラーゼを用いた。その結果、短鎖ssDNAが広い温度範囲で鋳型非依存的に伸長され得ることが分かった。その伸長効率は反応温度と配列の組成に大きく依存しており、ATリツチなものは比較的低温、GCリッチなものは高温で効率よく伸長された。GC%=50の配列は、PCR等で頻繁に用いられる70℃付近で最も効率よく伸長された。このことは、遺伝子増幅法に必須のプライマーとよばれる短い一本鎖DNAが非特異的に増幅され得るということを示している。この様な短鎖ssDNAの伸長はヘアピン形成によって自身を鋳型として複製・伸長されるためと考えられる。
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