研究概要 |
天然では、自己集合によって形成されたタンパク質の疎水ポケットを利用して、水中で高効率かつ高選択的な有機反応(酵素反応)を行っている。一方、人工系では多くのホスト化合物が合成されているものの、その孤立空間を利用し、新奇反応を創出した例はほとんどない。一方、今回用いる自己集合性かご型錯体は、これまでにも多くの新奇反応を生み出してきており、更なる新奇反応が期待できる。そこで本研究では、かご型錯体の疎水ポケットを用いた新奇反応の創出を目指す。 前年度までの研究で、かご型錯体内でのナフタレンの特異的Diels-Alder反応、不活性芳香族分子の[2+2],[2+4]付加環化反応に関する実験データを得ていた。そこで平成22年度には、それらの研究成果を学術論文としてまとめた。これらの反応は、かご型錯体を用いない場合は全く進行せず、新奇反応の創出に成功したといえる。 続いて、平成22年度の研究では、「かご型錯体内で起こる特異反応の熱力学的、速度論的解析」と「かご型錯体を用いたルテニウム2核錯体の反応制御」の2つをおこなった。解析の結果、新奇反応の創出の鍵が有機分子の包接状態(反応点の接近・固定)であることを実験的に明らかにした。また、この疎水ポケットを用いることで、ルテニウム2核錯体の反応性が変化することを見出した。 本年度に得られた以上の成果により、新奇反応創出の足がかりができたと考えられる。今後、これらの成果をもとに更なる新奇反応を探索していく予定である。
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