本研究の目的は、寄生虫を生物標識として有効利用することによって、野外におけるウナギの分布・移動パタンおよび生態的地位を明らかにすることである。本年度は、研究の基盤となる寄生虫相調査を進めるとともに、ウナギ各個体の耳石微量元素分析を行い、回遊履歴と寄生虫の出現比較を試みた。 1.愛媛県愛南町周辺の汽水域に生息するウナギの胃に、線虫Heliconema longissimumが高頻度(寄生率95.3%)で寄生していることが明らかとなった。この線虫のウナギへの加入パタンを調べるために、各線虫個体の体サイズおよび成長段階を精査し、コホート解析を行った。その結果、年間9ものコホートの遷移が認められ、H. longissimumは周年を通じてウナギに寄生(加入)していることが明らかとなった。ウナギは冬の低水温時期にほとんど摂餌しないとされているが、このような周年を通じた加入は、調査水域(汽水域)のウナギが冬季においてもH. longissimumの中間宿主を摂餌していることを示すものである。この成果は、京都市で開催された平成22年度日本水産学会秋季大会にてポスター発表した。 2.愛媛県愛南町の御荘湾とその流入河川で採集された140尾のウナギについて、耳石の微量元素(Sr/Ca比)分析を行ったところ、大まかに4つの生息地利用パタンが認められた(河川生息型、河口域生息型、湾内生息型、河川湾内移動型)。現在、これら4つのパタンを寄生虫から識別できるか検討中である。
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