近年、超短パルス赤外レーザー励起を用いた2光子励起顕微鏡法の進歩により、脳組織中の神経細胞を直接見る手段が登場し、脳機能研究の強力な手法として期待されている。しかし、2光子顕微鏡を用いた生きたマウスの脳内の神経細胞の観察には観察部位の開頭手術が不可欠であり、細菌による汚染や脳液の流出が長期計測を妨げる問題となっている。そこで本研究課題では、2光子顕微鏡による長期的なマウス脳のin vivo 高分解能観察(<1μm)を実現するべく、微細加工技術を用い顕微観察窓・試薬導入機構をデバイスに集約することで、光・物質の出し入れを可能にする埋め込み型マイクロブレインインターフェイスデバイスを開発している。平成22年度は、デバイスの試作及び動作確認を行った。デバイスには、動物個体への負荷を軽減するための微小化と生体適合性、2光子顕微鏡を用いた高分解能観察を行うための光学特性と脳の拍動の抑制、実験試薬の脳組織への投与・除去、細菌感染の回避が求められる。そこでまず、前述の要求を満たすデバイスを設計し、マウス頭蓋骨への埋め込みが可能な微小サイズ(直径2.7mm、高さ400μm)のデバイスを作製した。デバイスの材料にはガラス及びpolydimethylsiloxane(PDMS)を用いた。そして、作製したデバイスを実際にマウス頭部に埋設し、2光子顕微鏡によりマウス脳組織中の神経細胞を観察した。デバイスにより観察部位の脳の拍動が1μm以下に抑えられたことで、脳の拍動による画像のブレが生じず、サブμmレベルの高分解能観察が可能となった。さらに、デバイスを埋設したマウスの脳組織中の単一神経細胞の長期経過観察を行った。その結果、1ヶ月以上の長期にわたり神経細胞の微小構造の観察に成功し、デバイスの送液機能を利用した脳組織への試薬投与が可能な状態でのin vivo長期観察を実現した。以上の結果は、動物個体の行動と関連付けた精神疾患の治療法開発につながる可能性のある成果である。
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