本研究の課題は、近現代中央ユーラシアにおける地域秩序の形成において重要な契機となった、18世紀から20世紀にかけて同地域が経験したロシア帝国による征服、併合および統治を、天山山脈山麓に生活圏を有する遊牧民族クルグズ(キルギス)の動向に焦点をあてて考察することである。以下、平成22年4月から平成23年3月までの1年間においておこなった研究活動の概要を簡潔に述べる。 1.研究成果の発表。国内の査読付き学術雑誌に論文を投稿した。『史学雑誌』第119巻に論文「クルグズ遊牧社会におけるロシア統治の成立:部族指導者「マナプ」の動向を手がかりとして」を発表した。また『スラヴ研究』に論文「クルグズ遊牧社会におけるロシア統治の展開:統治の仲介者としてのマナプの位置づけを中心に」を投稿し、同誌第58号(2011年6月刊行予定)に論文として採用されることが決まった。そして、平成22年10月にアメリカはミシガン州立大学で開催された中央ユーラシア学会第11回年次大会において「クルグズ近代史再考」というテーマで英語での口頭報告をおこなった。 2.資料収集の実施。20世紀初頭からソ連政権草創期1930年代にかけて活動したクルグズ知識人たちの著述を収集するために、平成22年9月にはロシア連邦共和国サンクトペテルブルグのロシア国立歴史文書館において、平成23年3月にはクルグズ共和国ビシュケクの同国科学アカデミー・マナス研究所手稿部、中央政治文書館、国立図書館貴重図書部において資料収集をおこなった。彼らの活動とその思想的背景を、既に一定の研究蓄積のあるウズベキスタン、カザフスタン、東トルキスタン、ヴォルガ・ウラル、さらにはオスマン帝国にまで至る同時代のムスリム知識人たちの動向との比較において、類似点・相違点ならびに相互関係に着目しながら分析することで、クルグズ社会の近代化の特徴をより重層的に明らかにしてゆきたい。
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