soluble epoxide hydrolase (sEH)はエポキシドヒドロラーゼ活性(EH活性)と脱リン酸化活性を持つ酵素である。脱リン酸化活性の基質や機能は明らかではないが、EH活性の基質は、エポキシエイコサトリエン酸(EET)である。EETは、血管拡張作用や抗炎症作用、血液線溶作用などを持つ生理活性物質であり、近年、血管新生作用も着目されている。血管新生は、発生過程における循環器系形成や、癌の増殖や糖尿病性網膜症といった病態にも関与している。本年度は、糖尿病や癌におけるsEHの生理機能を明らかにするため、以下の3つの項目について実験を行った。 1.高グルコースによるsEH減少メカニズムの解析。様々な長さのsEH遺伝子上流を用いたルシフェラーゼアッセイにより、それに重要な領域及び、いくつかの転写因子の候補を決定した。2.sEHが細胞増殖へ与える影響の解析。sEHノックダウンによって細胞周期が亢進していることを見いだした。またこの原因の一つとしてEETに着目し、その合成酵素であるCYP2C8やCYP3A4をHep3B細胞に過剰発現させたところ、細胞増殖の促進、また低酸素応答の増加がみられた。またこれらはPI3K-Akt経路を介していることも明らかにした。 3.sEH脱リン酸化活性の基質の同定。精製sEHを用いて、合成基質と反応させ、ホスファターゼ活性検出の系を確立した。そこへsEHノックダウン細胞から抽出した脂質を加えると、競合的に活性の阻害がみられ、細胞中にsEHの内在性の基質が存在することが示唆された。 今回、sEHの減少に関わる転写因子を同定できたことから今後さらに詳しいメカニズムの解明に繋がると考えられる。また、細胞内脂質の中に本来の基質の存在が示され、今後は分離した画分の脂質をLC-MS/MSを用いて同定したい。
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