研究概要 |
本研究は,アモルファス炭素膜の生成過程を解明し炭素骨格構造の組織制御を行うことにより,欠陥が少なく,耐摩耗性・耐腐食性を有するアモルファス炭素膜を実現することを目的としたものである.平成22年度はまず,真空チャンバーの電源導入端子,フランジ,真空計等の真空部品を変更するとともにドライポンプを用いた高真空対応の装置に改造を行った.その結果,5.7×10^<-4>Paの真空到達度を得られるようになった.次に成膜条件を変化させ様々なアモルファス炭素膜を成膜する前段階として,基板を設置する場所の違いによって膜の構造や硬さにどのような変化があるかを調べた.チャンバーの天井から吊り下げられた基板ホルダーの上部・下部・アース側にそれぞれ基板を設置し,成膜された膜のラマン分光分析及び硬さ測定(PICODENTOR)を行った.その結果,基板の設置位置は膜の構造にあまり影響を及ぼさないが,成膜レートは最大で35%,硬さ・ヤング率は10%程度差が出ることが分かった.更に,原料を変えたアモルファス炭素膜の作成も試みた.その際,分光器(C10029:浜松ホトニクス)を用いてプラズマ発光分光分析も行った.原料にはC_2H_2ガス,C_2H_2+Arの混合ガス,CH4ガス,CH_4+Arの混合ガス,グラファイトターゲット(スパッタソースはArガス,Ar+C_2H_2の混合ガス,Ar+CH_4の混合ガス)を用いた.その後,ラマン分光分析・硬さ測定・水素量測定(ERDA)を行った.その結果,原料の違いによってプラズマ発光で得られたスペクトルに顕著な違いがみられ,膜質の違いがアモルファス炭素膜の生成過程の違いに原因があるのではないかと推測できた.今後は高電圧・高電流ナノパルスを発生させるSIサイリスタ素子を用いたパルス電源を用いた合成やラングミュアプローブを用いた電子密度,電子温度測定及び合成した膜を用いた耐摩耗性試験(ボールオンディスク試験)・耐腐食試験(電気化学測定)を行う.
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