研究概要 |
平成23年度は,超耐摩耗性ダイヤモンド状炭素(DLC)膜実現の一手法として,突起端部に対する相手材の接触の影響を緩和するために,端部に曲率を有するセグメント構造DLC(SR-DLC)膜の生成方法を検討した.また摺動の際に相手材と十分な接触面積が得られるように各セグメントの高さ・形状が均一になるような生成方法を提案した.従来はメッシュ形状のマスク(電極)を用いることによって,端部に曲率を有するS-DLC膜を生成できる.しかし,金属ワイヤーのメッシュ形状のマスクを用いると均一なセグメント形状が得られない.そこで本研究では金属ワイヤーのメッシュ形状のマスクの代わりとして,フォトリソグラフィプロセスを用いて,DLC成膜後に取り除き可能なメッシュ形状の犠牲層(金属層でこの部分が電極となる)を利用することを提案した.なお,この方法の利点として,犠牲層・DLC膜の厚みによって突起端部の曲率を変化させることが可能であることが挙げられる.また,今後,曲率を制御できることが期待される.なおこの提案に関して特許を出願した.一方,超耐摩耗性の実現には膜中の欠陥を低減させる必要があり,産業界でも膜のバルク欠陥の検出に対する要望も増えてきている.欠陥の検出には臨界不動態化電流密度法など様々な方法があり,ピンホール,クラック,剥離などの欠陥の種類に応じてそれぞれに合った検出・評価方法がある.しかし,それらの欠陥を一度に,さらに膜を傷付けずに検出する方法は考案されていない.さらに,膜表面からでは観察できない膜内部の欠陥について,製造現場で利用できる光学顕微鏡ベースの簡便な検出方法は考案されていない.本研究では膜の表面及び内部欠陥を分離検出できる新たなDLC膜の欠陥検出法を提案し,検出装置を開発した.膜に連続可視光を照射し,受光波長を変化させながらピンホールや剥離傷などの欠陥で散乱・反射された光を蛍光顕微鏡を用いて暗視野観察・分析する手法を開発した.従来の方法では,膜内部の欠陥を分離検出できないのに対し,本方法では膜の吸収係数が短波長側で大きいことを利用することで,膜内部の欠陥からの散乱光が長波長側で大きく,短波長側で小さいことを利用して,内部の欠陥を表面の欠陥と分離して検出できる特徴を有する.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度は2件の特許発明,3件の学術誌論文掲載,国際・国内会議の発表も多数あることから研究成果公開の観点からも順調に推移しているように見えるが,後半半年間はアメリカのミネソタ大学に留学していたため,この期間中は研究が進まなかったことは事実であるから.
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