研究課題/領域番号 |
10J08248
|
研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
谷島 尚宏 神戸大学, 理学研究科, 特別研究員(PD)
|
キーワード | 微分幾何学 / 非リーマン幾何学 / 河口空間 / フィンスラー幾何学 / 拡がった物体 / ボゾン変換 / 連続体力学 / 分数階微積分 |
研究概要 |
本年度は拡がった物体などの特異点を持つ物理現象及び連続体に対する幾何学的定式化を行った。拡がった物体に対する研究では、非ホロノーム変換により物理場に付随される多価関数を用いて河口空間の線素を定義した。非ホロノーム関数に対する共変微分(基接続)を用いて、河口空間における固有の平行条件を含む幾何学量を求めた。次に対称性の自発的破れとボゾンの凝縮による拡がった物体に対して、河口空間の線素をボゾン変換によるc数関数によって表した。具体的に転位や回位など並進・回転に関係する特異点を考えた。変位と回転の組へと拡張した線素に対する基接続を定義することで、その平行条件から転位や回位などの複数の特異点の幾何学的表現を同時に導いた。このことから、多価関数による物理場の特異点は河口空間から導かれる非リーマン空間上の幾何学量として表現できることを示した。 次に拡がった物体の一つである欠陥場の転位に関連して応力関数の幾何学的研究を行ったところ、応力関数曲面の曲率は歪みの不変量と対応することが分かった。また、様々な転位の種類が応力関数曲面の楕円・双曲面として分類されることを明らかにした。 さらに、分数階微分の計量を持つ曲面論を展開して分数階のオーダーをもつ曲率を導いた。特に二次元非圧縮性流体に対して流れ関数曲面を考えたところ、第二基本量の非対称性は流束の経路依存性に対応することが分かった。角を回る流れでは、流れ関数に含まれる分数階のオーダーがガウス曲率の符号を定めることを示した。 また、非リーマン空間上で異方性媒質中の波動伝播を研究した。フィンスラー空間の基本関数mth root metricに含まれる幾何学的パラメーターと弾性定数の間に相関があることを示し、幾何学的パラメーターと異方性パラメーターの取りうる値について明らかにした。この結果に基づいて異方性媒質中の波動伝播を幾何学的に定式化した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度までに特異点の幾何学的表現として、多価関数による物理場の特異点を非リーマン空間上の幾何学量と対応させ、転位や回位などの複数の特異点を同時に幾何学量で特徴付けることができた。さらに、応力関数曲面の観点から転位と曲率の関係を明らかにした他、分数階微分の曲面論を展開して非局所性の幾何学的性質を示したことで、当初の計画以上に進展していると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は微分形式による河口空間の表現を用いて、これまでに得られた結果をより数学的に定式化する。結晶中の転位については異方的な場合に拡張し、その他の特異点として結晶粒界、流体運動の渦などをリーマン空間からの逸脱として非リーマン空間の捩率テンソルとして表現することで、様々な非線形現象に見られる特異点の微分幾何学的表現を与える。さらに、曲率テンソルを用いて欠陥場の安定性についても考察する。また、応力関数曲面の研究については非対称応力場へと拡張することを考え、より多くの欠陥場を含む現象にも適用することを試みる。その他に分数階微分による曲線論を力学系に適用することで非局所性や時間遅れの効果を幾何学的に分析する。
|