研究概要 |
さまざまな特異な物性を示す遷移金属化合物に対して光電子分光やX線吸収分光を用いてその電子状態の解明を行った。まず擬一次元構造を有するTa_2NiSe_5について、330K付近で見られる構造相転移に関し我々はNiの内殻光電子分光や角度分解光電子分光(ARPES)から基底状態で電子とホールの対がマクロに形成される、励起子絶縁体転移の可能性を過去に示唆したが、今回相転移温度点をまたいでARPES測定した結果、転移によるピーク幅の急峻化や秩序パラメーターを反映したと思われるギャップの成長、バンド幅の増大を観測し、転移の詳細な電子構造変化を捉えた。励起子絶縁体転移はその存在は古くから理論的に提唱されていたものの実験的にはいくつかの候補物質が挙げられるに止まっており、Ta_2NiSe_5における励起子絶縁体転移の可能性をより確かにしていくことは大変重要であると考える。次に三角格子層状物質であるNiGa_2S_4,Ni_<0.7>Al_2S_<3.7>に関して、これら物質は極低温まで長距離秩序を示さないフラストレーション系であることからその特異な電子状態を調べた。我々のグループではGaの系において電子構造パラメーター、特に電荷移動エネルギーが小さいことに起因し、ホールが主に配位子に存在することで第三近接相互作用が優位に働くことを明らかにしたが、今回行ったX線吸収分光、内殻光電子分光では過去のGa系における電子構造パラメーターの再確認、およびAl系においても同様の機構でフラストレーションが生じていることを指摘した。これらはフラストレーションや長距離相互作用と個々の電子構造パラメーターを関連付ける議論であり、より包括的に適用できると思われる。さらに鉄系超伝導体Fe(Se,Te)のX線吸収分光スペクトルの拡張されたクラスター解析や、一次元構造物質バナジウムホランダイトのX線吸収分光を行い電荷秩序転移の解明を行った。
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