ボツリヌス神経毒素(BoNT)は、種々の無毒タンパク質と会合した複合体型毒素として存在している。BoNTに直接結合している非毒非血球凝集素(NTNHA)は、BoNTを消化器官に存在するプロテアーゼの分解から保護する。この特異な機能を持つNTNHAを、経口的接種が極めて困難なタンパク質・ペプチド製剤を体内へと輸送するキャリアタンパク質として応用可能ではないかと考え研究を進めている。本年度は、経口的薬物送達システムの開発に向けて、組換えNTNHA(rNTNHA)の結晶化条件のスクリーニングおよびX線回折強度測定およびBoNTの重鎖C末端ドメインの発現および精製、rNTNHAへの再構成試験を実施した。rNTNHAは自発的にN末端側の特異的部位に切れ目が生じるので、完全に切れ目が生じたrNTNHAを結晶化標品とした。結晶化はハンギングドロップ蒸気拡散法で実施した結果、タンパク質濃度55mg/ml、温度20℃、リザーバー溶液(塩;0.2M Ammonium Sulfate、緩衝液;0.1M Sodium Acetate trihydrate (pH 4.6)、沈殿剤;30% w/v Glycol Monomethyl Ether 2000)の条件で大きさ0.2×0.1×0.1cmの形のととのった単結晶を得ることができた。この結晶のX線回折強度測定を行った結果、最高分解能3.9Aが得られた。BoNTで毒性を示さないC末端側の重鎖(Heavy chain; Hc)ドメインのNおよびC末端側ドメイン(それぞれ、HcNおよびHcC)を組換え発現させ、それらとNTNHAの相互作用を水晶発振子マイクロバランス法(QCM)およびゲルろ過法により調べた。その結果HcCドメインが最も強い相互作用を示していた。このことからBoNTのC末端側ドメインが、NTNHAとの結合に関与していることが明らかとなった。
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