研究課題
近年発見された鉄系超伝導体の超伝導機構を解明することが本研究の目的である。本研究では、鉄系超伝導体の電子状態を適切に記述できると考えられる、鉄のd軌道と砒素のp軌道を顕に考慮した、2次元16バンドd-p模型に乱雑位相近似(RPA)を適用することにより、電子状態、及び超伝導について調べた。ここで、相互作用としては鉄サイト内のクーロン相互作用とA_<1g>、B_<1g>、E_g、orthorombicフォノンによる電子-格子相互作用を考慮した。その結果、軌道内クーロン相互作用(U)、フント則結合(J)、ペアトランスファー(J')は軌道揺らぎを抑える働きがある一方、軌道間クーロン相互作用(U')、電子-格子相互作用(g)は軌道揺らぎを増強する働きがあることが分かった。このU'とgの協力効果によって、軌道揺らぎが著しく増強され、また、その揺らぎを媒介として、ギャップ関数に符号反転のないs波超伝導(s_<++>波超伝導)が実現することを明らかにした。さらに、クーロン相互作用と電子-格子相互作用の大きさによって、スピン揺らぎ、軌道揺らぎの大きさが変化し、それらが競合している場合に、電子面上でギャップ関数にノードが現れることを示した。このように、パラメータによって多彩なギャップ構造が現れることは、実験で、物質に依存して様々なギャップ構造が見られることとコンシステントである。鉄系超伝導体の電子構造は非常に複雑であるため、現実的な模型に基づいた研究が本質的であると考えられる。そのため、本研究が鉄系超伝導体の理解の一助を担うことができると考えられる。また、軌道揺らぎが超伝導の発現機構であることを主張している研究は、非常に少なく、世界に先駆けた研究であると言える。実際、最近の超音波実験等では軌道揺らぎ理論を支持する結果が得られており、軌道揺らぎが超伝導の発現機構である期待が高まっている。
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