ミトコンドリアβバレル型外膜タンパク質(MEOMP)は、タンパク質のミトコンドリアへの輸送の他にアポトーシス制御とも関連しており、その機能不全は重大疾患の原因となる。MBOMPの輸送・外膜への組み込み機構の解明は、MBOMPの本質的な理解や創薬において重要であるが、輸送シグナルの不明、外膜組み込みシグナル(βシグナル)依存しないMBOMP存在の可能性など、それらの機構には不明な点が多い。本研究は、MBOMPの輸送・外膜組み込み機構解明のため、(1)βシグナルに依存しない新規MBOMPは存在するのか?(2)輸送シグナルはどこか?(3)βシグナルはどのように認識されているのか?という疑問を解決すべく研究を行う。本年度は、疑問(1)の解決のため、膜貫通領域とアミノ酸配列との相関解析から得られた構造的特徴やアミノ酸組成をもとに機械学習をベースにしたMBOMP予測ツール(Precision 98.8%、Recall 84.2%)を開発し、βシグナル非依存型MBOMPの探索手法を開発した。そして、酵母・シロイヌナズナプロテオームにおけるβシグナル非依存型の新規MBOMP探索を行った。その結果、酵母では、βシグナル非依存型新規MBOMPは見つからなかったが、シロイヌナズナでは、16個の候補タンパク質が見つかり、その一つは配列-構造比較から、構造既知のバクテリアのβ型外膜タンパク質と部分的な類似性を持つことがわかった。これらの候補タンパク質がミトコンドリアと葉緑体のどちらに局在するのかは不明であり、今後実験的な確認が必要であるが、新規のものが含まれていれば、ミトコンドリアと葉緑体において重要な発見となる。以上の結果を、これまで行ってきた真核生物プロテオームにおけるβシグナル依存型の新規MBOMPの探索とあわせ、BMC Genomics誌において発表した。また、本論文により、以前の"ミトコンドリアには100種類程度のMBOMPが存在する"という見積もりと大きく異なり、これまでに同定されている5種のMBOMPのほかには、新規のMBOMPはほとんど存在しないことが示唆された。
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