研究課題/領域番号 |
10J08344
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研究機関 | 独立行政法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
今井 賢一郎 独立行政法人産業技術総合研究所, 生命情報工学研究センター, 特別研究員(PD)
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キーワード | ミトコンドリア / β型外膜タンパク質 / マイトソーム / 赤痢アメーバ / 配列解析 / タンパク質細胞内局在 / 局在化シグナル |
研究概要 |
ミトコンドリアβバレル型外膜タンパク質(MBOMP)は、タンパク質のミトコンドリアへの輸送など重要な機能を持ち、その機能異常は重大疾患の原因となる。MBOMPの輸送・外膜への組み込み機構の解明は、MBOMPの本質的な理解や創薬において重要であるが、不明な点が多い。本研究は、MBOMPの輸送・外膜組み込み機構解明のため、(1)新規MBOMPは存在するのか?(2)輸送シグナルはどこか?(3)βシグナルはどのように認識されているのか?という疑問を解決すべく研究を行うことを目的としている。本年度は、(1)に関連し、ミトコンドリア由来のオルガネラにおける新規β型外膜タンパク質(BOMP)の発見という大きな進展があった。アメーバ赤痢は、マラリアに次いで患者数の多い感染症であり、原因となる赤痢アメーバは、細胞内に赤痢アメーバのミトコンドリア由来のオルガネラ(マイトソーム)を持つ。興味深いことに、赤痢アメーバのマイトソームは、ミトコンドリアとは異なるタンパク質輸送機構を持つと考えられている。また、Tom40、Sam50という二つのMBOMPのホモログが見つかっているが、低分子チャネルであるVDACのホモログは見つかっておらず、BOMPが存在する可能性がある。さらに、ミトコンドリアBOMPとマイトソームBOMPの比較からミトコンドリアBOMPの輸送・外膜への組み込み機構について重要な知見が得られることが期待できる。また、マイトソームの機能異常は赤痢アメーバにとって致命的なため、マイトソームへのタンパク質や低分子の輸送機構を解明できれば、マイトソームのみを機能異常にできる副作用のない新薬開発にもつながる。そこで、前年度に開発したMBOMP予測ツールを拡張し、赤痢アメーバプロテオームに対し新規BOMPの探索を行った。その結果、3つのBOMP候補を発見した。国立感染症研究所の野崎教授との共同研究により、これらの局在を実験的に確かめたところ、一つは、マイトソームへの局在が確認された。もし、この候補が低分子チャネルであれば、創薬ターゲットだけでなく、未だに不明な点の多いマイトソーム機能の解明の手がかりになることが期待できる。残りの二つに関しては、興味深いことにマイトソーム以外のオルガネラへの局在の可能性が示された。BOMPは、ミトコンドリアと葉緑体以外のオルガネラには確認されておらず、もし、βバレル型外膜タンパク質を持つオルガネラが存在するならば、新規オルガネラの発見となり、インパクトの大きい研究成果が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
MBOMPの輸送・外膜組み込み機構解明のため、(1)新規MBOMPの探索(2)輸送シグナル特定(3)βシグナル認識機構解明を目標に研究を行っている。(1)については、これまでに、未発見のMBOMPはほとんどないことを示し、シロイヌナズナおよび赤痢アメーバに新規BOMP候補を発見できた。(2)については、輸送シグナル候補領域とレセプタとのドッキングシミュレーション結果の解析中である。(3)については、MBOMPを外膜に組み込むSAM complexの構造モデリングを行う予定だったが、束縛条件となる複合体のサブユニット間の架橋実験が困難なため、標的をインポートを行うTOM complexの構造モデリングに変更した。コアとなるTom40のモデリングができ、今後、共同研究者から大量の架橋実験データが得られる予定である。以上のことから、本研究は順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
外膜組み込みシグナルがどのように認識されているのかという疑問を解決すべく、MBOMPの外膜組み込み複合体であるSAM complexの構造モデリングを行うことが本研究の目的の一つであったが、共同研究者の各古屋大学遠藤教授から、構造モデリングに重要な束縛条件となる複合体のサブユニット間の架橋実験がSAM complexでは難しいとの指摘を受けた。そこで、共同研究者側で、架橋実験が順調に進んでいるミトコンドリア・タンパク質の輸送複合体であるTOM complexの構造モデリングを行うことに変更した。TOM complexは、MBOMPのミトコンドリア内への輸送も行う。TOM complexの構造モデリングは、他の研究目的のひとつであるMBOMPの輸送シグナル特定に貢献できる可能性がある。今後、大量の複合体のサブユニット間の架橋実験データが得られる予定であり、これらのデータを束縛条件とすることで、精度の高いTOM complexの構造モデリングができると期待できる。
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