研究概要 |
ミクロスケールの熱流動,反応等の現象は,界面近傍における分子の挙動の影響を強く受ける.したがって,分子レベルの挙動を制御することでバルクでは実現できない機能を発現する新たなデバイスの創成が期待されている.本研究はナノ多孔体における気体流れの解明を目指している.ナノスケールでの流動現象は気体分子同士の衝突に加えて,固体表面に衝突した気体分子の散乱挙動が流れ全体に大きな影響を及ぼす.気体-固体表面間の相互作用を解析する実験的手法として分子線散乱実験がある.気体-固体間相互作用の解明を目的とした分子線を用いた研究はこれまでも多く行われているが,水分子と固体表面間相互作用,特に散乱挙動に関する知見は少なく,解明すべき点が数多く残されている.そこで本研究は水分子の固体表面での散乱挙動を通じて,水分子-固体表面間相互作用を解明することを目的とする. 23年度は水分子を用いた分子線散乱実験の実験系の構築を行った.水分子は凝縮性が高いため,強度の高い分子線の生成の難易度は高いが,システム全体をくまなく加熱することで,強度の高い安定した分子線生成が可能となった. 次に,水分子線を用いて分子線散乱実験を行った.固体表面には高配向性グラファイト(HOPG)を用いた.炭素系素材は固体高分子型燃料電池にも用いられており,ナノ多孔体の素材として期待されている.分子線の入射エネルギーは0.13eVとし,入射角度は40,60°,表面温度は300~500Kとした.水分子は極性,分子内自由度を持つにも関わらず,グラファイトとの衝突によるエネルギー損失が非常に小さいことが分かった.今後はより広範囲な入射条件で実験を行い散乱現象の全貌の把握を目指す.また,分子動力学シミュレーションと組み合わせてより詳細な現象解明を行う予定である.
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